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常軌を逸した手法でアニメを25年作り続ける男が居た──セルをクリアファイルに描き、声優、音楽、その他全てを1人で完成させるクリエイターはいかにして生まれたか【伊勢田勝行インタビュー】

アニメを作ったきっかけは漫画に箔をつけるため

――創作のアイディアは、どんなところから生まれてくるのでしょうか。何か参考にするものがあるのですか?

伊勢田:
 参考にするものはそんなに……。やっぱり、街に出たりとか、普通に歩いててひらめいたりします。「これはいいな」と思ったらノートに書き留めたりはします。

――創作のテーマはどんどん変わるタイプなんですか?

伊勢田:
 そうですね……変わるほうだと思います。漫画の落選も絡んでるかもしれませんけど。原作漫画が落選するたびに「これは全否定されたんだ」って自分でも見切って次のテーマにいったりします。

――つまり「原作漫画の評判が悪かったということは、違うテーマにしたほうがいいだろう」ということで更新していくみたいな感じなんですね。

伊勢田:
 そうですね。漫画を作って、それをトレースしてアニメに起こす感じです。

――これらの漫画に対する出版社の反応はどんな感じだったんでしょうか?

伊勢田:
 そうですね、『マーガレット』とか『りぼん』とかに投稿しているのですが。一応この『If²(もしもし)香芽代』は13位に入賞しました。まぁ……本当にビリっけつなんですけどね。これは、去年の『マーガレット』です。

『マーガレット』編集部からは、13位に選ばれた作品に「このお話で伝えたかったこと、読者に向けて描きたかったテーマをしっかり絞ったうえで、既存作家の影響を受けずに独自の世界観を出したお話を作ってください」と講評されていた。

――編集部から他の作品へも講評がありますね。

『マーガレット』編集部から、伊勢田さんの漫画につけられた講評「絵、ストーリーともに、投稿数から考えても我流を変える、課題をクリアにする、改善するといった意思を強く特にないと、レベルアップには結びつかないと思います。デッサン・ペンタッチ・描線といった基本をしっかり学ぶことをおすすめします。とりあえず描きたい、という気持ちをおさえ、作品の精度を上げてほしいです。」

――漫画を持ち込むことと、アニメ作りは別に関係のない話で進めていたっていう感じなんでしょうか?

伊勢田:
 アニメを始めたのは、自分の漫画に少しでも泊をつけようと思ったのがきっかけなんです。アニメ化した原作漫画となれば編集部も注目せざるを得なくなるかな、と。ちょうどアニメ化できる環境もあったから、それじゃあやろうかという感じです。

――自主制作でアニメ化していたとしても箔がつくと考えたわけですね……。自分の漫画を自分でアニメにしているのは、漫画編集部の方はご存じなんですか?

伊勢田:
 あんまり知らないと思います。でも『マーガレット』は一回だけDVDを送ったことがあります。そしたら「こんなことをしている暇はないはずです」と怒られました(笑)。

「女の子がセーラー戦士なんてあり得ない」

――『名探偵コナン』を見て探偵モノを描いてみようとか、他の作品や作家から影響を受けることはありますか?

伊勢田:
 一番は、小さい頃から見ている特撮や、少女漫画とか……『猫の恩返し』の柊あおい先生【※】ですかね。あれもキラキラで、「250万乙女のバイブル」と書いてあるやつですが。

※柊あおい
高校在学中よりTVアニメーションの同人誌作成に携わる。OLとして働きながら『りぼん』読者コーナー「みーやんのとんでもケチャップ」のカット描きを続け1984年『コバルト・ブルーのひとしずく』でデビュー。連載作二本目となる『耳をすませば』は雑誌を見た宮崎駿が気に入り、1995年に絵コンテ宮崎駿、監督近藤喜文で映画化された。

 やっぱり今でもそういうのが一番好きですね。ケータイも持ってないような子たちが、待ち合わせもすれ違ったりとか、そんな展開ですね。

――キャンプファイヤーのダンスで、「あと二人で手がつなげるのにつなげなかった」とか、そういうベタなやつですか?

伊勢田:
 そうそう、そういう結構ベタな内容なんですよ。

――いまの少女漫画って結構ませてたりする印象があります。社会派に内容が突っ込んでいたりとか。

伊勢田:
 妊娠とか、両親が変わっていたりとか。でも『ママレード・ボーイ』【※】は好きなんですけど(笑)。

※ママレード・ボーイ
吉住渉による漫画作品。『りぼん』にて連載された。ヒロインは、ある日いきなり両親から「離婚する」ことを告げられる。両親はハワイ旅行で出会った夫婦と気が合い、母親がその夫と、父親がその妻と恋に落ちたため、お互いパートナーを交換して再婚し共同生活を行う。

――伊勢田さんがそれらを見ていたのは何歳ぐらいのときでしたか?

伊勢田:
 大学に入る前とかですね。それより前の小学生のときにはやっぱり『魔法使いサリー』とか、あとは特撮の『仮面ライダー』、『バロム・1』とか。柊あおい先生は、もう……バイブルです。

――「女の子がヒーローになって戦う」というテーマには『美少女戦士セーラームーン』の影響はありますか?

伊勢田:
 実は、私が『バトルセーラー』というのを描いていた頃が、『美少女戦士セーラームーン』より前だったんです。でも、やっぱり「これは男の子向きだ」とか言われていたんですよ。「女の子がセーラー戦士なんてあり得ない」っていうことを言われて……。

 それであきらめて、さっきの『浅瀬でランデブー』みたいな少女漫画に一時切り替えてて、でも我慢できないからやっぱり『婦警ライダー』とか描いたりしました。『婦警ライダー』はかなり昔に描いた漫画だったんですけど、アニメ化されたのはだいぶ最近ですね。

――えっと……アニメ化「された」というのはご自身でアニメにした、ということですよね。

伊勢田:
 されてはいないですね、自分でアニメ化しました(笑)。何か錯覚に陥りそう。

なぜネットに作品を公開しないのか?

――今の時代、アニメを作ったらネットにアップロードしてたくさんの人に見てもらいたいと思う作り手が大半だと思います。伊勢田さんの場合、なぜネットに公開しないのでしょうか。

伊勢田:
 ネットに公開しようとする間に、もう次のアイディアが浮かぶんです。浮かんだアイディアを早く仕上げたくて、ネットに公開する時間がもったいないと言ったら失礼な言い方なんですけど。何かする暇があったら次のを描いて、絵コンテを切りたい。息してるのと、ほぼ一緒みたいなものです。

――次のアイディアがある、というのは全部漫画ですか?

伊勢田:
 そうですね。まず漫画を描いて、それが落ちて……落ちてって言うのもあれですけど(笑)、それからアニメ化するんです。

――それでは年間の落選した数のぶんだけアニメが増えるってことですか?

伊勢田:
 はい、そう思ってくれて全然支障はないです。

――年間に何作ほど漫画を描かれるんでしょうか?

伊勢田:
 大体、年に2作ぐらいですね。もっと多かった頃もありますけど。ビデオカメラがなくて、自分でアニメが撮れなかった頃は全く描いていませんでしたが、自分でアニメを撮れるとわかったら、やっぱりそっちに傾倒するような感じになりました。

――ご自身の作品を人に見てもらったときに反応が気になったりはしないんですか? 例えば「『浅瀬でランデブー』見ました!」みたいな感想をもらいたいな……とか?

伊勢田:
 いや、ないです。作品が完成して、それを普通に世に出して、売れなきゃそれまでなんだなって思っています。落ちても、やっぱり自分本位の作品を描いたときのほうが気持ちはいいですね。

――そもそもご自身の作品を人に見せる機会ってあるんですか?

伊勢田:
 作品ができたときに大学の文化祭とかで、上映会をすることはあります。一応、地元の映画館で上映会もやったんです。入場料1000円って書くと全然人来なかったんで、じゃあ無料にしますよって(笑)。

中田ヤスタカとのコラボを通して

――中田ヤスタカさんのMVを手がけておられますよね。そのとき周囲からはさすがに反応あったんじゃないですか?

伊勢田:
 いや、そんなに反応はなかったような。あんまり宣伝もしてませんでした。自分から特にアナウンスはしていないです。

――伊勢田さんのお話を伺っていると、漫画が落選してもそこまで落ち込んでいるようには見えないですし、有名人とコラボしても、それをことさらに標榜しているように感じないのですが、創作活動をしていてうれしいときってどういうときでしょうか。

伊勢田:
 できあがったときぐらいですかね。できあがったらもうそれで、一つ終わったみたいなことがあります。

 「ああ、終わったな」ぐらいの感じ。でも、すぐ次にいかなけりゃいけないんで。それは過去のものです。だから、ここの机の上にある作品はみんな過去のものですね。

――例えば『浅瀬でランデブー』を見た人が、「すごいよかった」って言ってきたときよりも?

伊勢田:
 それは嬉しいですが、できあがったことが、やっぱり一番ですね。「終わったな……」っていう。

――それを聞くと、有名人とコラボしても、あまり舞い上がらないのも納得です。

伊勢田:
 もう、とにかく早く作らなければっていう気持ちが中田ヤスタカさんとコラボした作品には出ていたと思います。

――創作のネタ出しには苦労したりするのでしょうか? まだ、作品にしていないアイディアがあるとか。

伊勢田:
 これ、ぶっちゃけて言うんですが、もう実は100作ぐらい頭の中にネタがあるんです。生きてるうちに全てのネタを作品にできるか心配してたりします。

 庵野秀明さんも言ってたと思うんですが、作品は排泄みたいな感じなんです。早く出して楽になりたいっていう感じです。

――作ったあとに、自分にとって大事な作品になるわけではなく。

伊勢田:
 やっと逃れられるっていうところは、呪縛から解放される感じですね。

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