「刀剣乱舞」が生まれてきた理由がわかった──新作歌舞伎を作るのは名刀のように歌舞伎も守り繋いでいきたいから【尾上松也×尾上右近 対談】
オンラインゲーム「刀剣乱舞」が歌舞伎化され、7月2日に初日の幕を開ける。
アニメ、ミュージカル、ストレートプレイなど、様々なメディア展開を見せてきた「刀剣乱舞」。「いつか歌舞伎にもなるのでは」と思っていたファンは少なくないだろう。それに、現代風の衣装で歌い踊る刀剣男士がいるのに、今まで花道から現れたり見得を切ったりする刀剣男士がいなかったことの方が不思議なくらいである。
そんな背景からかどうかは定かではないが、発表当初、SNSでは、「信じられない」「どうなるの……?」というよりは「いよいよか」「親和性高そう!」というような反応が多かったように感じる。
一方で、歌舞伎を見にいくというはじめての体験に不安を感じている「刀剣乱舞」ファンもいるのではないだろうか。これまでいちども見たことがない方も少なくないだろう。
逆もまた然り。新作歌舞伎『刀剣乱舞』で演出と三日月宗近役を務める尾上松也さんと、小狐丸と足利義輝の二役を務める尾上右近さんのおふたりが本格的に「刀剣乱舞」に触れたのも今回がはじめてだったという。
そんなおふたりは今作のために刀剣について学ぶべく、刀鍛冶の現場や刀剣が奉納された神社を訪問。
刀工によって魂を込めるかのように鍛え上げられた刀剣や、長い間守り伝えられてきた名刀を目の当たりにして、「作った人や守った人の思いが現代でも共感されたからこそ『刀剣乱舞』が生まれたんだと理解できた」と力強く語ってくれた。
先輩たちが守ってきた歌舞伎が、数多のエンターテインメントのなかで埋もれてしまわないように新作歌舞伎に取り組んでいるとも話してくれたおふたり。刀剣が守り伝えられてきたことに対する共感もひとしおだったに違いない。
新作歌舞伎『刀剣乱舞』についてのロングインタビュー。洋装の刀剣男士を和装に落とし込む苦労や永禄の変を題材に選んだ理由などもたっぷり伺った。
取材・文/朝倉有希
撮影/金澤正平
今後、友切丸や蜘蛛切が出てくる演目に出演するときは新鮮な気持ちになりそう
──本日はよろしくお願いいたします。さっそく、いつから「刀剣乱舞」をご存じだったか教えていただけますか?
松也
いつ頃から知っていたかは正確に覚えていないのですが、ゲームよりも先に派生作品の人気から認識しました。ミュージカルに関わっている友達もいますので。
右近
僕も、ミュージカル『刀剣乱舞』に出演されているspiさんと2020年の『ジャージー・ボーイズ・イン・コンサート』で共演させていただいたのがきっかけで知ったんじゃないかと思います。昨年の日生劇場での『ジャージー・ボーイズ』では同じくミュージカルのキャストの有澤樟太郎くんともご一緒しました。
──おふたりともご友人の活躍がきっかけだったんですね。
松也
はい。そこから気になって調べて、「あ、ゲームなんだ」と認識しました。明確に意識したのは、新作歌舞伎として『刀剣乱舞』を作ろうとした3年ぐらい前からだったと思いますね。本格的に調べだしました。
右近
共演した刀剣男士キャストさんたちも、「いつか歌舞伎になるんじゃない?」なんて言ってましたね(笑)。自分が出る出ないに関わらず、いずれそういうタイミングがあるんだろうなと思っていました。
──「刀剣乱舞」が歌舞伎になると発表された時も、「意外!」「信じられない!」というよりは「ついに来たか」といった反応が多かった印象です。
右近
ですよね。でも、兄のような存在の松也さんが初めて演出、主演という立場で新作歌舞伎に挑まれるところに重要な立ち位置で携われるとは思っていなかったので、決まった時はとても嬉しかったです。
──「刀剣乱舞」シリーズに見られる歌舞伎の影響についてはどのように感じていらっしゃいましたか?舞台版では毎回必ず冒頭で刀剣男士がずらりと並んで名乗りを上げますが、それが『白浪五人男』のようだと言われていますし、「ミュージカル『刀剣乱舞』髭切膝丸 双騎出陣 ~SOGA~」の五郎と十郎は歌舞伎の衣裳やキャラクター造形を踏襲していますよね。
松也
舞台に出てきていなくても衣裳などで「歌舞伎を意識していらっしゃるんだろうな」と感じられる刀剣男士はいました。それに、なによりもまず歴史を扱っている点に親和性があります。歌舞伎も歴史を扱う作品がたくさんありますし。歴史の出来事に対して「もしこうだったら」という発想から作られている演目が多いので、「刀剣乱舞」もすんなりと歌舞伎に落とし込めるだろうなと感じていました。
──刀剣が出てくる歌舞伎の演目で思い入れのあるものはありますか?
右近
僕は、やっぱり『小鍛冶』ですね。僕が演じる小狐丸の誕生シーンです。相槌を打つ者がいなくて困っていた三条宗近を稲荷明神の狐が助けてくれるお話です。
──さっそく今回のお役の話に!出来上がった刀の表には「小鍛冶宗近」の、裏には「小狐」の銘が入ったと語られますね。
右近
お能から歌舞伎や文楽になった、古典芸能のなかでもポピュラーな作品ですし。刀にフォーカスしている演目はほかにもいっぱいありますが、小鍛冶は特に「刀剣のお話だ」という印象が強いですね。小狐丸っていう刀剣男士のことも、決まる前から気になっていました。
──今回小狐丸を演じることになったのはなにかのご縁かもしれませんね。
右近
それでいうと、まだ歌舞伎での『刀剣乱舞』の上演が決まる前に仕事で伏見稲荷大社にお参り行ったんです。その時に不思議なことがあって。
──おお!伏見稲荷といえばまさに『小鍛冶』の舞台ですね。
右近
境内に御劔社というお社があるんです。そこに僕がお参りしたときに、何か空気がぴたーんって止まったってスタッフさんたちが言ってたんです。全然自分では気づかなかったんですけど、何か不思議な空気になってたそうなんです。小狐丸の役がきたりするじゃない?なんて話してたんですよ。目に見えない力で役に選ばれたのかなって感じました。
──すごい!松也さんはキャスティングのときにこのお話はご存じでしたか?
松也
いや、全然聞いていない状態でオファーしました。聞いてびっくりしましたし、間違ってなかったんだなと思いました。
右近
間違ってなかったですね。
松也
うん。間違ってない(笑)。合ってた。
──松也さんは刀が登場する思い出の演目はありますか?
松也
直近で言うと、右近くんと歌舞伎座で『寿曽我対面』の曽我兄弟をさせていただいたときにはいつもと違う感じでしたね。鬼切丸(=髭切)がモデルになっている友切丸が出てくる演目で。僕は曽我五郎時致を演じるのは3回目で、友切丸が目の前を通過していくという光景は今までも見ていたのですが。
右近
意味を感じましたよね!
──今年5月の團菊祭五月大歌舞伎ですね。しかも兄弟の仇である工藤祐経役は中村梅玉さんで、友切丸を運ぶ役は莟玉さんでした。それぞれ松永弾正役、髭切役として『刀剣乱舞』に出演予定ですね。
右近
何か呼ばれてる感ありましたよね。『刀剣乱舞』出演メンバーがあれだけ揃って。『刀剣乱舞』のことを考えてあの演目を選んだのかな?(笑)
松也
意識してたのかな?(笑)「あー、これ髭切なんだ。髭切が髭切を運んでる……」と、何か感じながら見てました。
──やったことのある役が新鮮に感じられたと。
松也
はい。『刀剣乱舞』の上演が決まったことで、右近くんも僕も刀について取材する機会を何回かいただきました。今まで自分の中で「刀というのはこういうものだ」って理解したつもりになっていた以上のものを学ばせていただいてから演じたときには、感じ方が変わりました。
──友切丸は曽我兄弟が仇討に使った刀として歌舞伎のほかの演目にも登場しますし、友切丸以外の刀が登場する演目にご出演する機会が今後もありそうです。
松也
『土蜘』で膝丸を使って病の原因だった蜘蛛の怪物を斬る頼光のお役を勤めさせていただいたこともあります。もしまた頼光を演じる機会があった際には、大きく芝居が変わるわけではないかもしれませんが、『刀剣乱舞』を経たことで刀への思い入れが変わるだろうなという気がしましたね。
いままでのメディアミックスと「題材をかぶせない」ことにこだわりすぎて行き詰まった
──今作の舞台は室町幕府の十三代将軍足利義輝が亡くなった「永禄の変」の時代です。「永禄の変」は「舞台『刀剣乱舞』悲伝結いの目の不如帰」の題材でもあり、あのお話が強烈に心に残っている「刀剣乱舞」ファンは多いと思います。あえてそこを選ばれたのはチャレンジングだな!?なんて思ったのですけれど。
松也
いや、もう、これまでたくさんのメディアミックスになっているので「もうやってるから」と言いだすとちょっと……。
──確かに……(笑)。
松也
最初はもちろん、ほかの作品でとりあげられている時代や人物を避けようとしてたんです。ですが、被らせないことにこだわりすぎて、今回のキャスティングにしっくりくるものをなかなか導き出せなくなってしまったんですね。
──「被らせない」というこだわりが枷になってしまったんですね。
松也
たとえほかのメディアミックスでとりあげられている題材でも、歌舞伎で上演することになれば、我々にしかできないことが絶対にあると思い直しました。被りを気にせず考え直したところからようやくスタートできましたね。
──歌舞伎でしかできないこと。
松也
実は一時期、ほかの作品との差別化を意識して、全然違うプロットを考えていたんです。そのプロットを「刀剣乱舞」原案のニトロプラスさんも結構いい感じだと思ってくださっていて、動き出そうとしていたのですが、変更することにしました。
──ええ!ボツ案、どんなものだったのか気になっちゃいます。
松也
僕が情熱を持って作れない気がしてしまって……。しばらく「これでいくのか……いや、もしかしたら成功するかもしれないし……」って自問自答してました。ある時、「ごめんなさい、やっぱりゼロから考え直したいです」と。
──進みそうになっていたものをふりだしに……一大決心ですね……
松也
以前のプロットの時点ではどの刀剣男士を主役にするか決まってなかったんです。軸となる人物が決まっていない中、大まかなストーリーを決めていったのですが、うまくいくイメージが湧かなくて。改めて、まずどの刀剣男士を登場させるかから仕切り直しました。
──それで三日月宗近が選ばれたんですね。
松也
いえ、三日月宗近を選んだというよりは、まず「例えば三日月宗近だったらどうしようか」と、一振りずつ順番に考えていく感じで仕切り直しました。ですが、三日月宗近についていろいろ調べてみたら永禄の変と足利義輝のエピソードが出てきて。足利義輝の亡くなり方、最高だ……と思ってしまったんです……
──二条城に押し寄せた三好軍に対し、自分の周囲の畳に突き刺した数々の名刀を使って応戦したとか、障子をかぶせられてその上から刺されたとか、ドラマチックな説がたくさんある「剣豪将軍」ですよね。
松也
こんなかっこいい最期ある!?って思ったんです。「これやろうよ!!これ他の作品でやってないですか??」って聞いたら、「やってます!!」って。
──あちゃー……
松也
でももう関係ない、やってしまおう!となりました。
──傾(かぶ)いてる!とビビッときちゃったんですね。
松也
もう、亡くなり方傾きすぎでしょう、義輝。事実かどうかわかりませんけどね。実は、「刀剣乱舞」が歌舞伎になると発表された段階で一番期待の声が多かった刀剣男士が三日月宗近だったので、避けたかったのですが(笑)。
──期待されると逆に(笑)。
松也
期待どおりの作品にはしない!なんて少し思っていたんですけど。それを覆すくらい義輝に惹かれてしまいました。
──今回、脚本を務められているのは、超歌舞伎にも携わっていらっしゃる松岡亮さんですよね。我々「ニコニコ」としては松岡さんとのやりとりも気になるところです。
松也
松岡さんとは最初から考えがすごく合いました。僕は『刀剣乱舞』をやると決めた時点で、映像等を多用せず古典の要素が多いものを作りたい、できるだけアナログがいいと思ってたのですが、初期の打ち合わせから松岡さんも「僕もそうしたほうがいいと思います」って言ってくださいました。僕がやりたいこと、僕が求めているものをかたちにしてくださっています。
──素晴らしい。
松也
「とにかく今回の作品を良いものにするんだ!」と最初からとても情熱を持って取り組んでくださっていてありがたいですし、超歌舞伎を見ていても中村獅童さんだけでなく松岡さんからも強い思いが感じられましたので、僕も信頼を持って松岡さんにお任せしようと思いました。
だれもが共感できるテーマ「ものに宿る魂」
──プロットはもちろんですが、役作りも自由度が高いからこそ悩まれることも多いのではないでしょうか。「刀剣乱舞」の大きな特徴として「それぞれの本丸」の刀剣男士としてちょっと個性の異なる刀剣男士がいてもいい土壌がありますよね。先輩に役についてしっかり教えていただく古典作品とも、原作のキャラクター造形がしっかりあるこれまでの新作歌舞伎とも感覚が全く違いそうです。
松也
三日月宗近は原作の「刀剣乱舞ONLINE」においても、どのメディアミックスに出てきてもいつも中心にいる刀剣男士でしたよね。いままで三日月宗近が背負ってきたリーダー性は歌舞伎でも保ちたいなと思いました。一方で、「歌舞伎の本丸にくると三日月宗近ってこうなりますよ」というイメージを作っていければなとも思っています。
──歌舞伎の三日月宗近にはどんな個性がありますか?
松也
今回に関しては、足利義輝は完全に三日月宗近の最初の主だという設定です。永禄の変と三日月宗近の関係は諸説ありますけどね。
──おお、そこは確固たる設定なんですね。
松也
三日月宗近は義輝の最期を知っています。そのうえで義輝の苦悩を目の当たりにするんです。しかも、自分が長年生きてきた中での初めての主であるという思い入れもあり……。普段物怖じしない、のほほんとしたおじいちゃんである三日月宗近が、心を揺さぶられてしまう瞬間を見せられて、三日月宗近と足利義輝の2人の物語として美しく描けたら理想だなと思っています。でも、大変なのは小狐丸も義輝も演じないとならないこっち(右近さん)ですよ。ねえ?
右近
いやいや!(笑) 自分でもやりたい気持ちがとてもあるので大変だとは思っていないですよ。松也さんが一番大変なのは間違いないし。松也さんの三日月かわいいっすよね。
──かわいいんですか!?
右近
めちゃめちゃかわいらしいし、哀愁もあります。長い間生きて歴史を知ってることによる孤独や哀愁がすごく強いですね。なおかつ優しいんですよ。刀同士の会話でもそうだけど、特に僕が演じる義輝に対して。
松也
何百年も生きていることや、人間ではないのに人間の姿をしていることから、異物感といいますか、そのほかの登場人物や刀剣男士たちとはどこか違う雰囲気を出したいとは思っていますね。
──お二人は同じ三条派の刀剣男士としてではなく、刀と元主としての掛け合いもされることになりますね。
右近
そうそう。三日月宗近はとにかく優しい、本当に春の夜風のような刀剣男士ですよね。それが僕、好きです。以上!
松也
自分の話をしてくれ!(笑)
右近
(笑)。小狐丸については、ルックスや他の五振りとのバランスを考えて、当初はかき混ぜるポジションというか、野生味あふれる活発な部分を多めにやってみようかなって思っていました。でもニヒルな要素もありますし、僕自身いままで健康的で活発な路線の役を演じることが多かったので、あえてそうじゃない部分を強めにしてもいいのかなと思っています。今はどれぐらいの割合で活発さやエネルギッシュな部分を強調するか、塩梅を探っているところです。
──三日月宗近との関係はどうでしょう。
右近
三日月宗近とは、三条宗近の作った刀同士で同年代、同輩みたいな感覚もありますよね。二振りの会話では、三日月のことを俯瞰して捉えたり、家族のような接し方をしたり、近しい距離感の関係性なんだなっていうのをわかってもらえるようにしたいですね。あとは義輝くんがね。すごいがんばってます。
──義輝のほうも役作りについて教えていただけますか。
右近
義輝も三日月宗近と同じくすごく孤独な人で、偉い人ならではの「何を信じていいかわからない」みたいな部分があるんです。でも、その孤独ゆえのよりどころのなさを三日月宗近とは共有できる、見せ合える。
──刀と元主の関係を掘り下げたストーリーなんですね。
右近
三日月のことは「宗近」と呼んでいるのですが、自分の愛刀の分身だってことには気がついてないんです。義輝は自分が生きた時代がどんなものか、そのあとの時代がどうなっていくのかは知らない。義輝の最期については三日月だけ知ってるっていう状況なので、お互い種類の違う孤独を抱えているんです。そんな孤独同士の中で通わせる心があるっていうところに何かあったかいもの、そして切ないものを感じています。それがお客様にも伝わるようにしたいです。
──二役の立場で松也さん演じる三日月宗近と向き合うのは少し大変そうです。
右近
二役やる幅があると思ってくれたんだな、って嬉しかったですけどね。いままでの新作歌舞伎も二役以上やっていたので通常営業ですし(笑)。
──たしかに!『風の谷のナウシカ』でもそうでしたね!
松也
ほぼなにも決まっていない段階から必ず刀剣男士役のだれか1人は二役を演じていただこうと思ってました。結果的に3人になってしまいましたけど。
右近
それに、義輝と三日月宗近の関係は僕と松也さんの関係にも通じるところがあるんです。松也さんが三日月だとしたら、僕が義輝みたいな。……別に僕が孤独だってわけじゃないんですけど(笑)
一同 (笑)
右近
松也さんは僕にとってあんまりほかで言わないことを言える人なんです。だから、三日月宗近と足利義輝の掛け合いのために特別に関係値を作らなきゃ、みたいな意識はあまりなくて。むしろ今回、初めてのことも含めていろんなことを同時進行でやってる松也さんを見ていたら、力になりたいって思いました。今は自分自身のことを一生懸命やるのが助けになるんだろうなって思っています。
──素敵な関係ですね。三日月宗近と小狐丸、三日月宗近と足利義輝、そして松也さんと右近さん。さまざまな関係に思いを馳せながらおふたりのシーンを楽しむことができそうです。
松也
刀剣について2人で取材する中で、作り手がどれだけの思いを込めて刀剣をつくったかということと、何百年経とうとも刀剣に込められた思いは伝わるんだということを改めて感じました。まさにそういった思いが現代にも通じたからこそ「刀剣乱舞」というコンテンツが生まれたんだなって理解できます。
──BS朝日の番組で刀鍛冶の現場や刀が奉納されている神社をご覧になっていましたね。
松也
刀に限らず人は「ものに魂が宿る」と感じますよね。歌舞伎にもたくさん、ものに魂が宿って動き出す物語がありますし。まるでファンタジーのようですが、実はとてもリアルな感覚だと思っています。例えば僕が乗ってる車にしても、携帯電話にしても、ものすごくいろいろな思い出が詰まっていて。ものから返事はありませんが話しかけてしまうとか、誰しも経験があると思うんです。そんな中で日本人にとって特に象徴的なものが刀ですし、今回は『刀剣乱舞』という作品ですので刀と持ち主の話になっていますけど、誰しも愛着のあるものを持っていると思うので、意外と刀と持ち主の話は共感しやすいテーマなのかなと。
──わかります。
松也
今回とても大事にしているのが、刀がどうしてできたのか、彼らがどういうふうに今まで残ってきたのか、という部分です。作った方の想いを大切にして、きれいに保つ方たちがいて……っていう、つながりがあったからこそ今に伝わっているんですよね。それは歌舞伎のような芸能も同じだと、お稽古しながら毎日感じています。
右近
ものに魂が宿っているような感覚というと、僕、1ヶ月の公演が終わったあとの舞台セットは「役目が終わった」ということをわかってるような気がします。
──詳しく聞かせていただけますか?
右近
舞台に1か月間ずっと同じセットが乗っていて、毎日使うんです。千穐楽を迎えると、もうそのセットは使わないから壊すんですよね。壊すために舞台の上から引き揚げて袖のほうに収納されているのを見てると、「ひと月もう終わったんだ」っていうのを道具がわかっているような気がするんです。
──なるほど……1か月間一緒に舞台に立った仲間のように感じるのでしょうか。
右近
引っ越しするために家を全部片づけて、最後家を出るときに「じゃあいってらっしゃい」って家が言ってるような感覚にも似てますね。ものに魂が宿ってるっていう感覚はすごく僕にもわかります。価値があるものとしてとっておく、受け継ぐ……っていう刀に対する日本人の考えには共感できますし、それで「刀剣乱舞」っていう作品が生み出されるに至ったんだと納得できます。
──すごい……実感のこもったお話ですね。
右近
本当に舞台セットがわかってるように見えるんです!毎日、廻り舞台の上で回ってきて、千穐楽じゃない日は「明日も出るんだ」っていうのがわかってるし、千穐楽の日は、「もうこれで終わったな」って顔してるんですよ。それが僕、大好きで。ありがとうって思うんですよね。