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「刀剣乱舞」が生まれてきた理由がわかった──新作歌舞伎を作るのは名刀のように歌舞伎も守り繋いでいきたいから【尾上松也×尾上右近 対談】

パッと見全然違うけれど原作の要素をちりばめた髭切と膝丸の和装

──今まで上演されてきた、原作に根強い人気のある新作歌舞伎が広く受け入れられた理由のひとつに音楽があるんじゃないかなと個人的に思っているんです。『ファイナルファンタジーⅩ』の「ザナルカンドにて」や「素敵だね」もそうですし、「ナウシカレクイエム」もそうですが。原作ファンにとって耳慣れた、大好きだったフレーズが和楽器ですごくきれいに聞こえてくることによって原作ファンの皆さんがわっとひきこまれていったような。今作に関してはいかがですか?

松也 
オリジナル曲もありますし、近侍曲も出てきますよ。

──おっと、じゃあ和楽器の生演奏で近侍曲が聞けちゃうわけですね!?

松也 
聞けちゃいますね。

──これはファン垂涎モノですね!もう一つ、原作がある新作歌舞伎の注目ポイントといえば、衣裳かなと。ビジュアル公開のときに「刀剣乱舞」のファンが「おっ!」ってなったのは原作で洋装の髭切と膝丸かなと思っていて。


松也 
そうですね。あの二振りが一番苦労しました。言ってしまえば小狐丸は簡単でしたね(笑)。

右近
(笑)。

松也
いちばん悩まずにすんなり何をやりたいか決められたってことです。三日月宗近や小烏丸もそぎ落とすだけでよかったですし、同田貫正国も真っ黒をどうかっこよく見せるかってところでしたので

──ゲームのビジュアルの再現度が高いかって言われるとそうじゃないけれど、「はい、これが歌舞伎の髭切と膝丸ですよ」とお出しされたら、もうすごく納得してしまうようなビジュアルだったなと。

松也 
まさに六振りすべてに「再現度が高いわけじゃないけど納得できる」と感じていただきたいと思っていました。

──具体的にあの衣裳になるまでの過程を教えていただけますか?

松也 
髭切と膝丸の洋装が和装になったときに、彼らの要素をどこまで生かすか悩みました。例えば袖に腕を通さず常に肩にかける髭切のスタイルとか、膝丸の丈が短いジャケットとか。歌舞伎ではほとんどないですから。今出てるビジュアルだとわかりにくいんですが、膝丸の羽織は短めに切れているんです。

──扮装ビジュアルではわからなかったです!これは現地で見ないと。

松也 
よーく見るとわかる要素というのは、ほかにもいくつかあって。原作では髭切は右袖、膝丸は左袖にそれぞれ房がついているのですが、それが実は背中についてたりとか。パッと見では全然違うけれどもちょこちょこ要素はあるんです。あとはカラーでパッと見で誰だかわかるようにしました。

──背中!花道からの出入りの時も見逃さずに衣裳に注目しないと……。要素を見つけられたら髭切、膝丸のファンも嬉しいですよね!

新作歌舞伎は歌舞伎を想うがゆえの「たんこぶ」

──記憶に新しい新作歌舞伎といえば、おふたりと同じく音羽屋の菊之助さんによる『風の谷のナウシカ』や『ファイナルファンタジーⅩ』かと思います。松也さんは「新作歌舞伎を手がけるのが長年の夢だった」というようなお話を制作発表会でされていましたが、それは今まで出演してきた新作歌舞伎や菊之助さんの影響があったりするのでしょうか。

松也 
今回菊之助さんから直接何かお声をいただいたりはしていないのですけれども(笑)。

右近 
でも、新作歌舞伎を作るとなったら、良き「目の上のたんこぶ」のような存在です(笑)。

松也 
僕も右近くんも、七代目(尾上菊五郎)のお兄さん
が毎年国立劇場で復活狂言を作られている現場や菊之助さんが作られる現場にいますし、僕は獅童さんとも一緒に作らせていただいたりしてきました。そのなかで感じたのですが、「新作はやらなくてもいいけど、みんなやってきている」んです。言い方が難しいのですが、これは本当は「やらなくてもいいと思いがちだけど、実はやらなくてはいけない」ことで。

右近 
新作を作ったり、復活狂言をやったりっていうのは、みんな歌舞伎を思ってるってことなんです。

松也 
先人たちが挑戦してきたからこそ今があるんです。その姿勢を見せていただいているので、言葉があろうがなかろうが、「いつかは自分もやりたいな」そして「やれるような基盤を作らなくては」と思っていました。

──基盤を作る。

松也 
ただ新しいものを作ってみたいではなくて、歌舞伎の歴史の一部として作っていく作業をしなくてはなりませんし、それで自分が少しでも歌舞伎に貢献できるのならという気持ちがあります。だからこそ新作を作ってみたかったんです。「たんこぶ」ではあるけれども、その「たんこぶ」がないと、現代まで歌舞伎はつながってきていないと思いますので。新作歌舞伎に携わってきた蓄積というのは確実に今につながっています。自分が演出をさせていただくにあたって、今までの経験が生きてると思いますね。

──誰かにとっての新たな「たんこぶ」になりたい、みたいな意識なんでしょうか。

松也 
「たんこぶ」になりたいと思いますし、「僕もこういうたんこぶを作りたい」って思ってもらえたらいいな。

右近 
思ってますよ、僕。

松也 
右近くんにも何か作ってほしいです。「たんこぶ」作品を作るのすごい得意そうだし。

──右近さんの自主公演「研の會」の横尾忠則さんデザインのポスターなんかも「たんこぶ」ですか?

右近 
見ていただいてありがとうございます(笑)。

松也 
勉強会や自主公演の場合は古典ではありますが、新作をやるときと同じような感覚ですね。勉強会も自主公演もちょっとした「たんこぶ」です。自主公演の経験を経ている人ってほとんど新作をやっていますし。

右近 
オリジナル「たんこぶ」作ってますよね。自主公演をやると、自分は歌舞伎をやっているんだ、この公演は自分のものなんだ、という実感がすさまじいんですよね。演目も自分で選ぶし。今度の「研の會」では関西の男と、きらきらした女性の役っていう、全然違う二役の自分を見てもらいたいと思って選んだのですが、これも演出なんです。自分にしかできないオリジナルなことなんで。新しいものに考えが及んでいくっていうのは、自主公演をやってきた人たちに共通する思考回路なんじゃないかな。

──ありがとうございます。古典じゃないものがどんどん前に出てきて、新しいファンが入ってくる流れに対して、松也さんと右近さんが「自分はもっとこういうことをやってみたい」と感じることはありますか?12月にはなんと超歌舞伎が歌舞伎座で上演されますよね。

松也 
新作を上演する意味というのは、歌舞伎の幅を広げることと、お客様の層を広げることにあります。初音ミクさんが歌舞伎座に降臨するのは、ある方たちにとっては「たんこぶ」そのものかもしれませんが、歌舞伎界にとっては客層が増えるのであれば願ったり叶ったりです。今これだけのエンターテイメントのライバルがいる世界でどうやって歌舞伎を残していくか、新作をやる人たちだけが考えればいいわけではなくて、新作に乗っかる人たちもいないといけないと思っています。


──古典と新作を分けないという部分ですと、今回、中村梅玉さんが『刀剣乱舞』に出演されるのはすごいことですよね。「刀剣乱舞」のファンはミュージカルや舞台で刀剣男士を演じている俳優さんと同世代の、映像作品や歌舞伎以外のジャンルの舞台でも活躍されている松也さんや右近さんに対して親しみやすいと感じると思います。一方で「刀剣乱舞」のことは何も知らないけれど梅玉さんが出られるなら……と見に来る長年の歌舞伎ファンの方もいらっしゃるんじゃないかなって思っていて。梅玉さんに『刀剣乱舞』のお話を持っていった際はどんな反応でしたか?

松也 
とても快く承諾していただけました。梅玉のお兄さんがいてくださることで、古典の要素を強めにしたい!と思っていた『刀剣乱舞』に安定感が出て格も質も上がりますので。

──梅玉さんに注目してほしい場面などはありますか?

松也 
義太夫節で全編やるシーンを一つ作っています。義太夫狂言とはどういうものかを、梅玉のお兄さんの経験と体を通して見せていただきます。「刀剣乱舞」ファンには、実はその辺が一番見ていただきたいかもしれないです。

──まさに古典歌舞伎に誘っていますね。

松也 
新作を作るとき、歌舞伎らしさを見せたいと思って無理に古典の要素を入れると逆効果になってしまう気がしていて。見せたい演出があるからといって話を変えるのもおかしいですし、話を変えてまで見せる必要があるのか……となるんです。でも今回はきちっと義太夫狂言を見せる
シーンを無理なく盛り込めましたので、とても満足しています。義太夫狂言にこそ歌舞伎が持つ本質的な魅力がありますしね。

──三味線を伴奏にした太夫の語りとともに人間国宝であられる梅玉さんが演じるんですね……そのシーン、とっても楽しみです。

松也 
新作を上演していないときでも歌舞伎座に行ってみようって思っていただけるのが理想ですよね。アニメやゲーム原作から新作演目を作ってご来場いただいたお客様に、古典演目も見ていただけるようバトンを繋いで、「おっ、どっちもすごい」って思っていただきたい。歌舞伎界全体がそうなってほしいです。

右近 
僕もまさしくそうだと思います。古典と新作どちらも普通に「歌舞伎だ」と認識してもらうことが大事。新作歌舞伎と古典歌舞伎でお客様が分かれちゃったら意味がないですよね。なので自分自身が垣根を作らずどちらも行き来することが大事だと思うんですよ。

──演者さん自身の行き来ですね。

右近 
新作と古典で感覚がちょっと違ったりもするんですけどね。新作をやっている今、まさに自分と仲間たちとで作っている自覚がすごく強くて。仲間と見に来てくれるお客様に自分を捧げている感覚です。一方で古典をやってるときは、脈々と受け継がれたものを自分がこの時代においてやってるっていう、歌舞伎っていう目に見えない巨大なものに身を捧げてる感覚。僕はどっちも好きで、どっちも僕です。古典と新作両方での僕の姿を見てどちらも面白いと思ってもらえたら、自分自身が古典と新作の架け橋になれているっていうことだと思うので、そこをめざしたいな。どっちも好きな自分をずっと維持したいです。僕自身が好きなことをやってる姿を見たら、みんな好きになってくれると思ってるんです。

──平安時代から美しい姿のまま伝わってきている名刀のように、歌舞伎をずっと先までつなげるための努力の一つが新作歌舞伎なんですね。本日はお忙しいところありがとうございました!


いよいよ開幕する新作歌舞伎『刀剣乱舞』。
「刀剣乱舞」と歌舞伎という、これまで(国立劇場などでのコラボはあったが)出会ったことのなかったもの同士の出会い。きっと、好きな刀剣男士の新たな魅力や「刀剣乱舞」の世界のさらなる深みを感じることができるだろう。松也さん、右近さんが「刀剣乱舞」と出会って今まで演じたことがある演目を新鮮に感じたり、これからの歌舞伎界を盛り上げる立場として刀剣の歴史に共感したように。

そして、今作によってはじめて歌舞伎に出会った方にはぜひ今後古典歌舞伎にも足を運んでいただきたい。歌舞伎座では6月から、コロナ禍で長らく中止されていた「一幕見席」の販売が開始された。
映画と同じくらいの料金、前日予約で気軽に歌舞伎を楽しむことができるシステムである。

刀剣が登場する物語と、それを表現してきた芸能に触れること。それは博物館に刀身を見に行ったりグッズを買うのと似て、刀剣の物語を将来に繋いでいくためのささやかな一助になるのではないかと筆者は考えている。


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