『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』ジェダイが崩壊したのはどう考えてもヨーダが悪くない?
毎週日曜日の夜8時から放送中の『岡田斗司夫ゼミ』。12月の放送では、3週連続の「スター・ウォーズ特集」ということで、放送日時を変更し、日テレ系列の金曜ロードショーでのテレビ地上波放送を題材に、『スター・ウォーズ』の世界をより深く解説します。
12月1日金曜日の放送回では、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』の魅力を徹底解説。「この作品の見所は、フランク・オズの操る“ジェダイ・マスター・ヨーダ”の演技にある」という岡田斗司夫氏。主人公のルーク・スカイウォーカーの修行シーンを語りました。
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『帝国の逆襲』の最大の見所はヨーダの演技
岡田:
ヨーダの初登場シーンではヨーダの照明と、ルーク・スカイウォーカーの照明が違うことがわかる。ルークの顔には、R2-D2の足元にある照明が当たっているので、ちょっとオレンジがかった不気味な顔になっているのに対して、この登場時はただの変な老人だと思われていたヨーダの方は素の照明で映している。
この照明は「ルーク・スカイウォーカーが感じた不安さ」を出したいから、彼の方に赤みがかった照明を下から当てている。そしてヨーダが近づいてくると、今度はヨーダのほうにも下から照明が当たり出して、ミステリアスな顔になる。これが「ライティングで表情を付ける」ということ。
フォースの修業をするために惑星ダゴバに辿り着いたルークは、金属の缶からカロリーメイトみたいな葉巻型の非常食を出す。この非常食をヨーダが勝手に食べるときの、口を伸ばして食べる演技では、実際に食べておらず、パペットがパクパクしているだけの演技なんだけども、メチャクチャ上手い。
そして、「僕の食事だ!」と言って取り上げておいて、ヨーダがかじった非常食の匂いを嗅いでから投げ捨てるルークっていうのも面白い(笑)。その食い物を、ヨーダが四つん這いになって漁るシーンがかわいいんだよ、尻が見えて。
この辺の服の衣擦れ感がリアル。惑星コルサントにいたころは、すごいブランド物の服だったんだろうけど、共和国が滅んだあと、同じ服を何年も着ているものだから、尻の辺りがボロボロになっているんだ。
単なる人形をCG以上にリアルに見せるパペット使い
岡田:
その後、正体を明かしたヨーダを前に、これから始まる厳しいジェダイの修行について、ルークは「決して恐れません!(Never afraid!)」と言うんだけど、俺はここが好きなんだ。ルークの言葉にヨーダは意味深に「いや、お前は恐れる(You will afraid.You will.)」と言う。
ここは、ヨーダが初めて怖く見えるシーン。やっぱりこれも、目をずっと薄く開けていたところから、一瞬だけクッと開けるという動きをする。このパペットの演技がいいんだ。
岡田:
ヨーダを見ていると、“見せる”ということがどういうものなのかというのがわかる。こんなのは言ってしまえば、ディテールの少ないただの人形なんだよ。
だけど、それを顔の皺とか、髪の毛のポワポワした感じで一生懸命補って、老人らしさという情報量を増やし、動かさなくてもいいディテールを盛っている。それらを、更にカメラアングルと照明を、最大限に利用して表現している見せ方が本当に面白いね。
ヨーダの課したユニークな修行法
岡田:
ヨーダの言っていた“厳しい修行”のシーンだけど、その厳しい修行とやらの正体は、ただ単にじいさんを背負って山の中を走るだけ。背負ったじいさんからの説教を延々と聞きながら、アスレチックをやるという“説教アスレチック”という新しいジャンルの修行だ(笑)。
背負われたヨーダは、子泣き爺みたいにずっと耳元で喋っている。「ダメじゃ」とか、「こんなことが起きる」とか言われながらアスレチックを続け、そして、「今日はここまでじゃ」と、すぐに休みを入れてくれる。この先も修業を続けていたら、どんなことをさせるつもりだったんだろう(笑)?
エピソード7以降の『スター・ウォーズ』は、基本的に初期の作品のパターンを踏襲しているんだけど、エピソード8では主人公のレイという女の子が、ジジイになったルーク・スカイウォーカーを背負って走る、なんてシーンはまさか出てこないよな。
でも「じいさんを背負って走るのは、スター・ウォーズの伝統芸なのです!」となるというのも面白いな。
答えのない洞窟修行
岡田:
ヨーダは修行として、「その洞窟の中にフォースの暗黒面がある。中に入ってみろ」と言うんだけども、これについては「人の心の中にある、敵意とか、野心とか、向上心みたいなものが、フォースの暗黒面だ」と言っている。
フォースの暗黒面というのは本人の中にあるものであり、それに引き込まれる人というのは自分の暗黒面に引き込まれるだけであって、別に外にあるものに誘われて入るんじゃないんだ。
洞窟の中に入って行くルーク。この辺は神話構造だ。「洞窟の中に入って行くと、自分が最も恐れている敵が出てくる」というやつ。スローモーションになって、ライトセイバーを持ったダース・ベイダーが出てくるシーンを注意して見ると、ルークがライトセイバーを抜くまで手を出さない。ブゥンという音とともにルークがライトセイバーを抜いて構え、初めてダース・ベイダーも抜く。
実はこれ、自分が最も怖いと思っている存在に対して、ルークが恐れて攻撃しなければ、ここでのダース・ベイダーも何もしてこなかったということなんだと思う。たぶん、これがジェダイとしての最初の試練だったんだろう。
だけど、これは『スター・トレック』のコバヤシマル問題【※】と同じで、正解がない。じゃあ、どうすりゃいい? ヨーダの言う通り、恐れなきゃよかったのか? でも、恐れる心を持っていない知性なき生物はジェダイになれるはずがない。なので、解答のない疑問なんだろう。
※コバヤシマル問題
スター・トレックに登場する宇宙艦隊アカデミーにおけるシミュレーション課題。救難信号を受けた候補生たちは貨物船コバヤシマルを救助しなければならないが、クリンゴン領宙を侵犯することとなり、結果圧倒的多数のクリンゴン艦からの攻撃を受ける。実はどう行動しても最後は候補生たちが負け、全滅を免れないシナリオになっている。
岡田:
切り落としたダース・ベイダーの首から、わりと出来のいいルークの顔のレプリカが出てくる。これはすごい。作り物なんだけどリアル。それを見て、恐怖に青ざめるルーク。なにかあったときの悩みの表情とか、絶望の表情とか、この辺りのマーク・ハミルの演技はすごく良いんだ。
でもそれ以上に、ヨーダを下から操っているフランク・オズがすごい。洞窟の前で弟子の行末について思案しているヨーダを、地面を杖でひっかいているだけの動きで表現しきっている。