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スタジオより先にCG学校を作り人材を育てた! ハリウッド帰りのタイのクリエイター達がいつか日本を追い越す日

ディズニー、ピクサーなどを経て創業したRiFF

 最後に訪問したのは、RiFF Animation Studio(以下、RiFF)。創業者でメインクリエイターのトゥンさん(Veerapatra Jinanavin)は、留学先の米アカデミー・オブ・アート大学【※】在学中にウォルト・ディズニー・アニメーションやピクサーでのインターンシップを経験し、その後『アイス・エイジ』シリーズなどで知られる米ブルースカイ・スタジオとソニーピクチャーズ・イメージワークスに3年在籍するなど、CGアニメーションのトップの現場を経験してきた人物である。

※アカデミー・オブ・アート大学
アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコにある全米最大のアートとデザインの美術大学。ピクサーの現役クリエイターが教鞭を執るピクサークラスがあることでCG界では知られている。

(画像は『RiFF Demo Reel』より)

──ピクサーやディズニーなどトップのCGスタジオを経験されてきたと思いますが、そこで学んだことは、今のRiFFに生かされていますか?

トゥン:
 アカデミー・オブ・アート大学からピクサーに行くのは一つの目標でした。ピクサーのパイプラインはもちろん規模が違うのでそのまま持ち込むことはできませんが、ピクサーだけでなくブルースカイやイメージワークスなどでの色々な経験を取り入れて、なるべく良いとこ取りができるように、ソフトなどの開発も行っています。

RiFF創業者・メインクリエイターのトゥンさん

日本アニメ風の『May Who?』はタイ版のカリフォルニアロール

──CG作品でも現在は様々なスタイルの作品がありますが、RiFFでは『May Who?』【※】という作品で非常に日本っぽいテイストのトゥーンシェードの作品を手掛けています。こうしたトゥーンシェードの作品も積極的にやっていきたいと考えていますか?

※『May Who?』
タイの実写のコメディ映画。RiFFは劇中の主人公の妄想がアニメ風に表現されている一連のシーンを手掛けている。

トゥン:
 『May Who?』のスタイルはクライアントの要望だったのですが、タイ版のカリフォルニアロールではないですが、アメリカ版の寿司としてカリフォルニアロールが有名ですが、タイ人が日本風のアニメを作ったらどうなるのか?という企画の元に生まれた作品なんです。

日本のアニメ風の3DCGが特徴の『Maywho』アニメパート
(画像は『CGI & VFX Breakdown “Making of Maywho” by Riff Studio | CGMeetup』より)

──トゥンさんご自身にはこんなスタイルをやりたいというのはあるのでしょうか? RiFFで実現したい夢はなんでしょうか?

トゥン:
 特にスタイルに対するこだわりはないのですが、自分の夢はもちろん自分の作品を作って公開することです。
 ですが、自分だけではなく、タイには腕の良いアニメーターがものすごくたくさんいます。彼らの中にはアメリカに行きたくても社会的にも経済的にも行くのが難しいというアニメーターは少なくありません。そういったアニメーターたちのためにも良い作品を作り、海外の有名なスタジオの作品であってもタイにいながらでも作ることができる環境を実現したい。それももう一つの夢なのです。
 だからこそ、タイらしさを持ちつつも海外に通用する作品を作りたいと思っています。

民家を増築したRiFFスタジオ(左)と、訪問時に建築中だったRiFFの新社屋(右)。

作品で一番大事なのは技術的なクオリティよりもストーリー

──タイはCG教育も充実し、高いクオリティの作品を送り出すことにも成功しています。逆に日本では教育や労働環境の面などは、むしろ遅れていると感じる部分もあります。タイと日本のCGの状況を比べるとどちらが勢いがあると思いますか?

トゥン:
 なぜ「タイのアニメーションが良い」と言われるのか? 自分の見解としては、外注として仕事を受けているので、カット毎に見るとクオリティが高く見えるのです。
 作品単位で見ると、やはりまだ日本の方が経験やストーリーの作り方、映画そのもののクオリティや作品の絶対数、そうした全体的な平均値を見ても、タイはまだ日本のレベルには及んでいないのではないかと思っています。

──今後はCGの技術的な面だけでなく、ストーリーやキャラクター、背景など全体のクリエイティブを強化していくということになるのでしょうか?

トゥン:
 作品で一番大事なのは技術的なクオリティよりもストーリーです。ストーリーが面白くないと、クオリティが高くても人は見てくれないと思っています。まずはストーリー・脚本を一番に考えて、技術的なクオリティはその次になります。

夢は「タイの人がタイの作品を見る」状況を作り出したい

トゥン:
 一番の夢は「タイの人がタイの作品を見る」ということです。日本でも同様の傾向があるかもしれませんが、日本の作品よりもハリウッドの作品を好むということもあるように、タイの人は自分たちが作った国内の作品をあまり見ていなくて、海外の作品を見てしまうという状況なのです。

 今、日本が抱えている問題とタイが抱えている問題はかなり次元が違うと思っています。日本は既に日本人に向けたコンテンツを作ってある程度認められていて、それをこれから世界に向けて作ろうという段階で、それをどうすれば良いのかという状況ですが、タイでは自分たちが作った作品が自国内の人たちの目に届いていないのです。そうしたことが可能になるエンターテインメントとしてのクオリティに達していないので、悩める段階がまだ違うのではないかと思っています。

 だから、タイ人が作ったタイの作品をタイの観客が喜んで観てくれるという状況をまず作りたいのです。「タイの人が作ったこんな面白いものがあるらしい、じゃあタイの作品を見よう」と思ってもらって、それを見る人がたくさんいるらしいから、じゃあオリジナルコンテンツを作ろう!というふうに盛り上がっていけば、今の日本のレベルに達することもできると思っています。

【第1回】
・群雄割拠の世界アニメ市場で日本アニメは生き残れるのか? 世界最大のアニメーション映画祭アヌシー代表が語る、日本アニメのポテンシャル

【第2回】
・日本アニメが世界ヒットしても何故クリエイターにお金が届かなかったのか? エヴァでヨーロッパにアニメ再ブームを起こしたイタリア人の戦い

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