「VOCAROCK PARTY!」― ボカロPがステージに立ち、自らの楽曲を“声”で届けた夜
■キツネリ:底抜けの明るさと爆発力でイベントの幕を切り裂く
開演時間となった17時。観客席には、期待と緊張が入り混じった独特の空気が漂う中、「VOCAROCK PARTY!」の幕を切ったのはキツネリだった。
まずステージにバンドメンバーが現れ、続いてグミ山が登場。
観客が「もう1人は?」と首をかしげたその刹那──1曲目「HYPERMARKET」のイントロとともに、まさかのサプライズが起こる。
なんとN-Roachが客席の一角で、観客に紛れて座っていたのだ。
歌いながら立ち上がって登場すると、周囲の観客は驚きの声を上げつつ、すぐに笑顔へと変わっていった。
その突き抜けたユーモアと型破りなパフォーマンスに引き込まれるように、会場の熱がじわじわと上昇していく。
観客たちは自然とリストバンドやペンライトを振りはじめ、キツネリの明るく前向きな楽曲が放つハッピーなエネルギーが、ステージからフロアへと波のように広がっていった。

続く先日リリースしたアルバム『First Contact』より披露した新曲「1KWYL」では、初披露にもかかわらず、N-Roachが堂々とコール&レスポンスを要求。
それにしっかりと応えようとする観客の姿からも、すでにステージとの一体感が生まれていることが伝わってくる。
「一瞬で終わるので最後まで暴れましょう!」というMCの言葉通り、演奏の熱量はさらに加速。
「変身」ではN-Roachがキャラクターの頭だけ被った姿に変身して会場内を歩き回り、ラストの「▷コンティニュー」では、全員が手拍子で応えるほどの多幸感に包まれていた。

演出面でも遊び心を忘れず、終始笑顔と熱狂をもたらしたキツネリ。まさに“祝祭”という言葉がぴったりな空気を創り上げ、このイベントにふさわしい最高のスタートを切ってくれた。
■伊根:LIVEで初体感!映像と音で描く“唯一無二の世界観”
2番手として登場したのは、ネットを中心に活動を展開してきた伊根。
今回が初のライブステージ出演とは思えないほど、そのパフォーマンスは堂々たるものだった。
これまで楽曲や映像を通じて発信してきた伊根の世界が、生身の姿・演奏・歌声によって立体的に浮かび上がり、まるで夢の中を現実へと引き寄せるような、不思議な空間を創り上げていく。
「リレイ」では、重厚なベースとドラムに、伊根のギターが繊細に重なり合い、感情の奥底をそっと掘り下げるようなメッセージが、じわじわと観客の胸に染み渡っていった。ステージ後方のスクリーンには映像も投影され、視覚と聴覚の両面から、彼の世界観が丁寧に紡がれていく。

MCでは「やっとお会いできましたね」と笑顔で語りかけ、「僕の曲を聴いてくれる方が本当にいるんだね」と、観客に向けて真摯な思いを伝える。
その言葉に対して、客席からは温かな拍手と歓声が送られ、ネットという匿名性を越え、音楽を通して“人と人がつながる”という感動が、そこに確かに存在していた。
「ナイトフォール」では、バンドが織りなす緻密なリズムに、伊根のギターと歌声が見事に絡み合い、会場全体を深い没入感で包み込んだ。
続く「赫赫」のセルフカバーでは、原曲を手がけた本人ならではのアプローチによって、メロディや言葉のひとつひとつに繊細なニュアンスが宿っていった。

ラストの「文字化ヶ」では、ギターを激しくかき鳴らしながら、自身の感情をまっすぐ音に乗せていく。
その熱量を受け取った観客も自然とハンズアップし、会場は一体感に包まれていった。
演奏後、伊根の表情には、安堵と喜びが静かに滲んでいた。「また皆さんの前で音楽をやりたい」というMCでの言葉も、力強く胸に残った。
■小ノ寺 空 / Δ(デルタ):静けさの中に響く決意と、新たな創造の息吹
3番手として登場したのは、小ノ寺 空 / Δ(デルタ)。
今年5月、ボカロP“Δ”としての活動から、シンガーソングライター“小ノ寺 空”としての歩みを正式に発表した彼女にとって、今回は記念すべき初のライブステージとなった。
Δ名義で発表された楽曲のセルフカバーに加え、小ノ寺 空としてリリースされたオリジナル楽曲も披露される構成に、観客の期待は自然と高まっていく。
果たして、その期待にどう応えるのか──その答えは、最初の一声で明らかになった。

丁寧に言葉を紡ぎ出す繊細な歌声、そこに重なる映像演出、そしてバンドとの息の合った融合。
それらが絶妙なバランスで交錯し、まるで一つの舞台作品を観ているかのような、静謐な緊張感が会場全体を包み込んでいく。
「青色が怖くなったんだ」や「誰のための足か」では、ハウス調のビートとリリカルな旋律が絡み合い、観客の身体は自然とリズムに引き寄せられていった。
小ノ寺 空名義の「致命」では、これまでのΔ作品とはまた異なる温度を持つ、彼女自身の“声”が、静かに、しかし確かに会場に染み渡っていった。
MCでは「この曲が歌を始めるきっかけでした」と語り、「藍の反証」へとつなぐ。
変則的な拍と緻密なメロディラインに、彼女は自身の声で繊細かつしなやかに乗りこなし、その内側に宿る強さを、静かに、しかし力強く解き放っていく。
観客も自然とその空気に引き込まれ、耳を傾け、口ずさむ姿も多く見られた。

ステージが終わると、惜しみない拍手が会場を包み、小ノ寺 空の“表現者としての第一歩”が、確かに刻まれたことを感じさせた。
これからの活動に対する期待が、会場全体に大きく膨らんでいた。
■てにをは:“ボカロの名曲”が、制作者の声で息づく瞬間
お馴染みのイントロが鳴り響くと、客席から自然とクラップが起こり、ステージにはてにをはが登場。
大きな歓声とともに披露された1曲目は代表曲「ヴィラン」。
そのソウルフルで高らかな歌声に会場全体が揺れ、観客は腕を振り上げたり、リズムに身を任せてステップを刻んだりと、思い思いのスタイルで楽曲のグルーヴを楽しんでいた。

続く「ザムザ」では、よりパワフルにボーカルを響かせ、特にサビではてにをはならではのフロウが冴え渡る。
ボカロ音源とは異なる“生の質感”が加わり、聴き慣れた楽曲がステージから熱を帯びて届けられていく。
その熱量はバンドの演奏と相まって、観客の熱狂をさらに加速させた。
MCでは、「深海の海老が浜辺に打ち上げられたような心境です」と独特な比喩で緊張感を語りつつ、観客の笑いを誘う巧みなトークで空気を和ませる。
そして「コアな方はご存知かもしれません」と紹介して披露されたのは、1stアルバム『女学生探偵ロック』収録の「カタトキモ」。
和装の羽織りをまとい、ビブラートや抑揚の繊細なコントロールで、ボーカロイドとは異なる“人間の感情”が吹き込まれたような歌唱が胸に響いた。

ラストナンバー「古書屋敷殺人事件」では、てにをはの動きに合わせて観客が左右に手を振り、クラップが重なっていく。
一体感に包まれたステージでは、バンドもてにをはのエモーションに応えるように熱を増し、ライブのフィナーレを華やかに飾った。
まさに“ボカロP・てにをは”と“表現者・てにをは”が融合した、見応えあるパフォーマンスとなった。
■みきとP:自身の名曲を、自らの声とギターで鮮やかに鳴らす
イベントのトリを飾ったのは、みきとP。ギターを手にステージへと現れると、爽やかで切れ味鋭いサウンドと共に「Who are」でライブがスタート。
柔らかくも芯のある歌声に、観客は一気に引き込まれていく。サビでは、ペンライトや手を振りながらステージに熱いレスポンスが送られ、熱量が一気に上昇していく。
続く「バレリーコ」では、みきとPのギターに乗せて響く有名なサビのフレーズに、観客のテンションは一気に沸点へ。
体を揺らし、自然と口ずさむ声があちこちからこぼれる――そんな熱気が会場を包み込んでいった。
彼を中心に、バンドも観客も次第にシンクロし、会場全体が躍動感のある一体感に包まれていく。

続く「少女レイ」ではアコースティックギターに持ち替え、ボカロの歌声と自身の生歌が交差する、この日だけの特別な演出に。
客席からは感嘆の声とともに、ステージをじっと見つめる視線が注がれた。
「ロキ」が始まると、イントロの時点でクラップが巻き起こり、跳ねるようなリズムにあわせて観客もステージも最高潮へ。
軽快なギターソロでは、卓越した技術と遊び心が炸裂し、観る者すべてを魅了した。

本編が終わるやいなや、すぐさまアンコールの手拍子が沸き起こり、再登場したみきとPとバンドメンバーが披露したのは「小夜子」。
優しく寄り添うような歌声と演奏が、余韻と感動をじんわりと会場全体に染み渡らせた。
「懐かしい曲を披露したかった」とみきとPが語って最後に選んだのは、「クノイチでも恋がしたい」。
みきと会の歌声と自身のボーカルが重なり合い、エネルギッシュかつ祝祭感に満ちたこの楽曲は、イベントのフィナーレを飾るにふさわしい多幸感と高揚感で満たされていた。
“VOCAROCK”というタイトルが示すように、ロックの熱量とボカロカルチャーの可能性が、みきとPのステージで見事に融合したラストとなった。

「VOCAROCK PARTY!」は、ネット発の音楽たちが“生の熱”を帯びて立ち上がり、創り手の声と想いが観客の心にまっすぐ届いた特別な瞬間だった。
それは、ボカロカルチャーが次のステージへ進むことを確かに示す夜だった。
2025.10.12 「VOCAROCK PARTY!」セットリスト
■キツネリ
1. HYPERMARKET
2. 1KWYL
3. 変身
4. ▷コンティニュー
■伊根
5. リレイ
6. ナイトフォール
7. 赫赫
8. 文字化ヶ
■小ノ寺 空 / Δ(デルタ)
9. 青色が怖くなったんだ
10. 誰のための足か
11. 致命
12. 藍の反証
■てにをは
13. ヴィラン
14. ザムザ
15. カタトキモ
16. 古書屋敷殺人事件
■みきとP
17. Who are
18. バレリーコ
19. 少女レイ
20. ロキ
(アンコール)
EN1. 小夜子
EN2. クノイチでも恋がしたい
Photo by 星野耕作