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米マイクロソフト元副社長が語るネット動画の最新動向「アメリカではYoutubeでテレビ放送もディズニーも全部見れる」

 米Microsoft本社・元副社長であり、現在は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)で教授を務める古川享氏民放テレビ局時代数々の大ヒット番組を生み出したドワンゴ・エグゼクティブ・プロデューサーの吉川圭三氏を聞き手として、日本と世界のネット動画サービストレンドについて生講義を行った『Microsoft元副社長 古川享 が語る「ネット動画サービスの今と未来」』

 YouTubeやFacebookがテレビコンテンツの取り込みを仕掛けたと思えば、アメリカの巨大スーパーマーケットチェーン・WalmartはBlu-rayやDVDの販売減に備えて独自にテレビ用OSを開発。数多ある動画サービスの発展は、私達の生活を今どう変えていこうとしているのだろうか。時間や場所といった制限からの解放に代表される動画サービスの発展は、コンテンツの立ち位置やメディアとユーザーの関係性、そしてビジネスとしての成り立ちをも変化させている。


左より米Microsoft本社・元副社長、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)教授 古川 享 氏、ドワンゴ・エグゼクティブ・プロデューサー 吉川圭三 氏

加盟局をすべて見ることができるYouTube TV

古川:
 YouTube TV、知っていますか?

吉川:
 ごめんなさい、知らないです。

古川:
 YouTubeが始めた新しいサービスで、YouTube TVに加盟すると自分たちのサービス以外のテレビも見られるんですよ。CBSだろうがディズニーだろうが、全部見ることができます。

Youtube TV見られるチャンネル一覧の画像

吉川:
 これを全部見られるんですか?

古川:
 しかも自宅だけじゃなく、スマホでもiPadでも、家族みんながどこでも視聴できるんです。だから場所の制限からも、これまでひとつのハードディスクレコーダーでどの番組を録画しようかと取り合っていた状態からも解放されます。

吉川:
 地上波もケーブルも、ほとんど入っていますね。

古川:
 全部コミットしています。野球中継とかサッカー中継なんかの特別な番組の時は10ドルプラスとか、特別なレンジもあるんですけどね。

吉川:
 なるほど。

古川:
 「地元の番組を見たい」とか「東京に引っ越してきたけど関西の番組のほうが好きだ」という人が別の地域の番組を視聴することは、中継地域を縛っている今の法律ではできないんじゃないかなと思っていたのですが、これをradiko【※】が解放したんです。

 で、「これと似たようなことを次は誰がやるのかな」と思っていたら、FacebookがFacebook Watch【※】を作ったんですよ。Facebook WatchやYouTube TVは、AbemaTVやニコ動みたいにネットワークの中で生まれたコンテンツを熟成させて1つのサービスを出していく形じゃなく、「テレビを敵視しなくても、取り込んじゃえばいいんじゃない」という考えなんですね。

※radiko
ラジオ放送をパソコンやスマートフォンで聴くことができるサービス、過去1週間の放送を遡って聞くことができる他に、有料のプレミアム会員は日本全国のラジオ放送をほぼ全て聴くことができる。

※Facebook Watch
2017年8月にFacebookがアメリカでサービスを開始した動画視聴タブ「Watch」。Facebook上でオリジナルビデオコンテンツが視聴できる新たなタブとして追加され、ユーザー個人にカスタマイズされた推薦が表示される。

震災をきっかけに地域の縛りから解放されたradiko

古川:
 radikoもサービスが始まった当初はGPSで位置をチェックして、放送地域から外れているところには送信しないという縛りがあったんです。インターネットラジオだから本当は統一で当たり前なのに、何なら電波で受信したラジオだって細々と聞こえてしまうのに、それでもわざわざGPSで位置情報をとって放送を止めていたんです。

 だけど東北の震災が起きた時に、「地域制限は外したほうがいいんじゃないの」となったんですね。「震災の情報を現地から直接聞きたい」「どの地域からも聞けるようにして、被災地を助けよう」という声をきっかけにして、ラジオの地域制限が外れたんです。そしてこれが実現した瞬間、放送法で縛られていた地域性の縛りが完全に解けて、radikoのプレミアムサービスが始まったわけです。

 radikoのプレミアムサービスが安いの高いのという話は当然あるんですが、でもサービスを維持するための新しい広告とリターンのからくりが生まれたら、その月額料金もきっと下がると思うんですね。

吉川:
 うんうん。

古川:
 「radiko高い」と言うのは簡単です。だけどやっぱりみなさんには「どうやったら安くなると思うか」を考えて、それを発信して欲しいんですよね。もし「無料でいいんじゃない」と思うなら、「無料で維持するためにはどういう形でお金が回れば、メディアとして成立するんだろう?」とぜひ考えてみていただきたい。

 例えば広告を聞きたくない人は有償で広告を聞く人は無料というシステムだって作れますよね。今までは一元的に広告を無理矢理見せられるか聴取料を払うシステムでしたが、有料かつ広告抜きで聞きたい人と広告があってもいいから無料で聞きたいという人が同時に視聴できる、そんな環境もこれから先のビジネスモデルの中で作れるんじゃないかなと。

吉川:
 それは革命的ですね。

古川:
 結局YouTube TVもこうやって考えていった中でサービスが始まった。結果、ケーブルに束縛されずに生の中継がそのまま見られるようになったわけです。

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