「伝えたかったことはあの本に込めた」手術で歌えなくなった歌い手が、実体験をもとに執筆した小説『家庭教室』への思いを語る
小説家の登竜門! 2月のワナ
百花繚乱:
経験値を活かすという意味では、歌のほうの活動は今回の執筆には活きていますか。
伊東:
間違いなく活きていると思います。音楽っていうのは芸術だと思っているんです。文学も芸術、絵画も芸術だし、演技も芸術だと思うんですよ。
芸術ってなんだ、アートってなんだ、アーティストってなんだっていうところで、表現者だと僕は思っているんですよ。だから何かを表現する手段の違いでしかないと思っていたんですよ。
百花繚乱:
表現するという意味では変わらないだろうと。
伊東:
そのゴールとスタートっていうものは、音楽と何も変わらないなと僕は感じました。
百花繚乱:
中間の話は出てませんけれども、表現する過程の話を。違いはあったんですか。
伊東:
最悪の結末を迎えた感じ。
百花繚乱:
今から発表するって中で最悪とか言っちゃダメですよ。
伊東:
大変だったんですよ。手術を1月末に終えたんですよ。2月の頭から声を出すことができなくなったので、その前のタイミングくらいで担当の方に「2月中は書き上げますよ」って言っちゃっていたんですね。
百花繚乱:
ビッグマウスですね(笑)。
伊東:
なんでかって言うと、プロットが何年か前からあって、それまでに僕も手術するってことになっているから、そのころからプロットをいくつか書いとかなきゃなって書いて、そのプロットってそれぞれの作家さんによっていろいろ違うと思うんですけれど、僕の場合、結構書いちゃうほうなんです。
あとは肉付けすればもう文章なっちゃうな、ぐらいのプロットを書いちゃっていたから。
百花繚乱:
しっかり骨を組んでいたんですね。
伊東:
そう。あとは肉付けだけなんでみたいな、そのつもりで書きはじめたところ、主人公が頭の中でいろいろなところに行くわけですね。これも書かなきゃ、あれも書かなきゃってなったら、もう終わらないの全然。 それで2月って何日まであるか知っています?
百花繚乱:
28日。
伊東:
僕、全然認識していなくて、2月24日の時点で「なんだ、まだ一週間……いやいやいやいや!」みたいになって。
百花繚乱:
31日の計算と思っていたんですね。
伊東:
全然間に合わないって。
中村:
それはわかる。
伊東:
わかるでしょう!
百花繚乱:
小説家あるあるなんだ(笑)。
中村:
月間の仕事をしていると、2月って1割少ないんだよ。ある日カレンダーを見ると、あれっ!? って。それはわかります。
百花繚乱:
小説家の登竜門を一発目から経験できたっていう(笑)。
伊東:
そうですね(笑)。あとは年末進行というやつですよね。僕はまだ経験していないですけれど。年末になると、20日くらいで会社が休んじゃうから31日かけてやるところを20日ぐらいでやらなくちゃいけないと。2月よりももっときついんじゃないのかな。
中村:
それはよくわかんないな(笑)。
伊東:
え~!
中村:
最近減ってきているんです。印刷所もちゃんと動くようになってきたし。だから年末進行で突っついてくる編集者は嘘をついています。早く原稿が欲しいから。だから話半分くらいで聞いておけば大丈夫。
伊東:
「真のバッファ【※】」という言葉は聞いたことありますか。
※バッファ
「余裕を持たせる」という意味で使われることが多い。
中村:
それはあります(笑)。
伊東:
編集者に「バッファはここですよ」って言っておきながら、「真のバッファはここです」って。本当の締め切りがあるんですよね(笑)。
「まだ喜びを噛みしめる余裕は全然ない」
百花繚乱:
今の段階でいいのですが、作家になって一番嬉しい瞬間を教えてください。
伊東:
僕は本当に必死に書いてしまったんですよ。間に合わないとか、そういうのもありつつ。作家としては走り続けている感じの感覚なんですね。だから後ろを振り返る余裕がマジでないんですよ。まだ喜びを噛みしめるとか、そういう余裕は全然ないっていう気はしますね。
百花繚乱:
中村先生が「そうだろう?」って顔をしています(笑)。
中村:
今ゲラをやっているんですか。
伊東:
ちょうどやっています。ゲラというのは、ほぼ完成形の行のレイアウトとか全部ある状態のものが印刷されていて、それに赤ペンを入れていくんです。ここはちょっと一行空けたほうがいいなとか、ここ誤字脱字がありますよ、みたいなものを、今ちょうどやっています。
中村:
僕は校正者が入っていない原稿を読ませてもらいました。
百花繚乱:
一番レアなやつじゃないですか!
中村:
誤字見つけた(笑)。
伊東:
先生やめて~(笑)!
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