ボカロ好き高校生×ボカロおじさんによる新旧ボカロ座談会──「ボカロとどうやって出会ったの?」「初音ミクってどんな存在?」世代を超えて好き放題語ってもらった
楽器メーカーという立場から見たときのボカロ
──ボカロ黎明期からヤマハでボカロ開発に携わられていた木村さんとしては、当時のムーブメントはどのように捉えていたのでしょうか。
木村【ボカロおじさん】:
僕がボカロに関わり出したときは、ちょうど初音ミクが出始めのときで、鏡音リン・レンがちょうど発売されるタイミングでした。
ニコ動を中心に盛り上がりを見せていて、じゃあヤマハとしてそこをどう盛り上げていこう、ボカロ文化をどう育てていこう、というのはすごく考えていました。
仁平【ボカロおじさん】:
初音ミクに限らず、多くのボカロはヤマハさんの技術、というかボーカロイドという言葉じたいがヤマハさんのものですから。
木村【ボカロおじさん】:
楽器を作る立場としては、やはりいろいろな曲を作ってほしい想いはありましたね。
ボカロ文化は、キャラがあってこその盛り上がりがあるのは大前提として、一方で、ぶっちゃけ絵はなんでもいい、キャラはいらないしむしろ邪魔をしていると考えている方もいたんです。
例えば、wowakaさん。彼はイラストをペイントで作っていたんです。そういう人がいるなら、そういう人たちに向けたボカロを作ろうとなり、VY1が発売されたわけです。
──さきほどあった歌っていただくとは違う、楽器としてボカロと付き合っている。
木村【ボカロおじさん】:
はい。当時のボカロPさんは、ボーカロイドというものをありがたがる傾向が強かったんですが、例えばギターだと、ライブ中に壊したり燃やしたりするパフォーマンスもあるわけで、それは極端だとしても、個人的には、もっと自由にいろんなことをガンガンやってほしいという想いはありました。
楽器メーカーという立場だったので、ボカロはあくまで「楽器」
例えば、声質について「いまロックがきている」という話から、じゃあグロウルを搭載して唸り声をあげようか、みたいな。とくに、wowakaさんはドストレートに考えをぶつけてくれるので、ものすごい印象に残っています。
今後のボカロとの関わりかた
──ここにいるおじさんたちはいわゆるボカロを仕事にしている人たちなんですが、みなさんは今ボカロが好きでいろんな動画や楽曲を楽しんでいるわけじゃないですか。あくまで趣味として嗜んでいくのか、仕事として関わっていきたいとか、どのように考えているのか教えてください。
リョウマ【高校生】:
みなさんがボカロ好きだってことがすごく伝わってきて、その好きなことで仕事をされている。自分は今、モーショングラフィックスを使ってMVを作らせてもらっているんですが、自分も自分の好きなことを仕事にしたいと思いました。
──今好きなことを将来的に仕事にしたいと考えているわけですね。
リョウマ【高校生】:
はい。小学校のときからずっとやってきているので。僕の性格上、そうじゃないと続かないと思いますし、なにより絶対楽しいじゃないですか。
佐藤【ボカロおじさん】:
楽しいけど辛いこともあるよ?(笑)
──(笑)。辛い気持ちになるのってどんなときなんですか?
佐藤【ボカロおじさん】:
例えば、仕事になると、やりたいことだけではなく、当然ですがやらないといけないことがでてきて、好きなことに追われてしまう。好きなことなんだけど、やらないといけない。結果、好きなことなはずなのに、大変だなって思ってしまうこともあるんです。
──そんな辛いこともありつつ続けられる原動力ってどのあたりになるんでしょう。
佐藤【ボカロおじさん】:
やっぱり、楽曲や動画を作って、いろんな人に見てもらって反応をもらえる。それが目の前で広がっていく様子を見られるというのはめちゃくちゃハッピーだと思うんです。
リョウマ【高校生】:
今のお話を聞いてなおさらやってみたい想いが強くなりました。
佐藤【ボカロおじさん】:
今日ここにいるおじさんたちは、どちらかというとクリエイターというより裏方側なんだけど、リョウマくんはクリエイターと裏方だと、どっちに興味があるのかな? 聞いてる感じ、クリエイター側なのかなとは思いつつ。
リョウマ【高校生】:
欲張りかもしれませんが、どっちも経験してみたい気持ちがあります。実際にやってみないとわからないこともあると思うので、チャンスがあるならどっちにも挑戦したいです。
菱山【ボカロおじさん】:
クリプトンのスタッフも、元々はクリエイターやパフォーマーをしていた人がたくさんいるんですよ。ですので、どちらもやってみるのはいい経験だと思います。
──ミハルさんはどう思いますか?
ミハル【高校生】:
私は革新的なアイデアだったり発想みたいなのを作り出すのは得意ではないので、サポートするほうが自分にはあっているのかなと思っています。
クラスの友だちなんですが、私の周りにはBlenderというソフトで3Dオブジェクトを作ったり、「アイアンマン」の仮装をしたり、クリエイター側の人が多いんですが、言語化をどうすればいいかわからなくて悩むことが多い印象なんです。そのあたりをうまくサポートできたらなと思いつつ、あとビジネス的な視点にも興味があって経済や経営の勉強もしています。
佐藤【ボカロおじさん】:
言語化というのは大事で、実際に言葉の説明がうまい裏方側の人は多いです。
ただ、それとは別に、今求められていることとしては、難しい言葉でアナリティクスっていうんだけど、再生数の流れや視聴者層などの数値を分析して、それをもとにどうしたほうがいいか提案してくれるサポート。
日本では、ひとりのアーティストに対して多くのスタッフがつく体制が多いですが、アメリカではアーティストひとりに対してサポートする人がひとり、ふたりつく少数のチームが普通になっている。アーティストに近い立場で、数値を分析して提案する、そういう戦略的なことができるのは音楽業界では少ないですし、クリエイティブな考えたかたに対する自信がなくてもできることだと思います。
菱山【ボカロおじさん】:
私からもひとつよろしいでしょうか。私の仕事は法務、法律関係なんですが、一般的にこういう仕事は会社のなかでブレーキをかけるのが仕事なんです。
──法律的にこれはやっていけませんよ、みたいな。
菱山【ボカロおじさん】:
そうですね。ただ、クリプトンという会社は、キャラクターライセンスを作って非営利のファン活動であれば自由に使っていいですよと言ったわけです。
これを言ってしまうとじつはひとつ苦労が発生しまして、普通の著作権者の場合は著作権でダメと言っていると「ダメ」ということに気兼ねしないんです。ダメなものはダメ、黙認するものは黙って見逃す。原則でダメだからどちらも理由がいらない。
──確かに基本ダメというのが一般的な対応な気がします。
菱山【ボカロおじさん】:
ですが、当社のように自由に使っていいですよ、と打ち出している場合は、逆にダメというときになぜダメなのか根拠がないといけない。納得していただける理由を作る必要がある。
一方で、今のままではダメだけどこことここを整えればオッケーだよね、というときもあって、そのときはブレーキを踏むのではなくアクセルを踏む仕事になるわけです。
ですので、法務のような堅い、融通が利かないと思われている職種でも、意外とクリエイティブが発生する場所も多いというのを、クリプトンにきて学んだ気がするので、ビジネスサイドにいくとしても、そういう発想もあるというのはひとつお伝えできればなと思いました。
佐藤【ボカロおじさん】:
とあるボカロPさんから言われてすごく印象に残っている言葉なんですが、クリエイターがうまくやるための交渉や調整も、環境づくりというクリエイターだと思うと。
だから、裏方だからと言って事務的にならないで、感じたことがあれば伝えてほしいし、そういう架け橋になってほしいと。なので、裏方だとしてもクリエイティブな気持ちは大事にしてほしいです。
ミハル【高校生】:
ありがとうございます。裏方側の印象が変わって、クリエイティブな要素があると聞けたのは大きな収穫でした。
──シュウくんはどうですか?
シュウ【高校生】:
自分は昔からクリエイターに興味がありました。今も実際に歌ってみたをやってみたり、ミックスを勉強していたり、映像を作ったりしているんですが、それに対して反応をいただけるのがめちゃくちゃうれしくて、それを糧にやっていければ楽しいなと思っています。
──「米津玄師さんみたいになりたい」みたいな憧れの存在というか目標みたいなものってあるんですか?
シュウ【高校生】:
自分が今メインでがんばっているのが映像系なので、ボカロとはちょっと離れちゃうんですが、Vlogというジャンルで動画を発信しているクリエイターさんたちがいて、その人たちの動画を参考にして自分の動画を作ってみています。
仁平【ボカロおじさん】:
お話を聞いていると、みんなすごい具体的なビジョンを持っていてビックリしているんですが、N高ではそういう専門的なことを教わるクラブみたいなものがあるんですか?
シュウ【高校生】:
N高には、チャットツール「Slack」の中に部室にあたるチャンネルを作り日々活動している同好会があり、その中に音楽研究会的なものがあります。また、課外授業の中にボカロプロデューサーの40mPさんの特別授業もあり、受講することができます。
──「ネットの高校」のN高なだけに、クリエイター活動に興味がある人は多いんですね。
ミハル【高校生】:
そうですね。私が通う高校をN高に決めたのも、40mPさんのお話で「N高にはミックスの機材がおいてあって、ボカロの編集をしている方もいる」って聞いたことがひとつの理由なので、そういう活動に興味がある人にとっての設備は充実していると思います。
──高校選びの基準に!? それはすごい……。さて、宴もたけなわということで、座談会はこちらでお開きとさせていただければと思います。貴重なお話の数々、ありがとうございました!
座談会後のボカロおじさんアフタートーク
──今日の座談会では、10代の若者たちとボカロトークをしてきたわけですが、いろいろと話してみてどうでしたか?
菱山【ボカロおじさん】:
クリプトンという場所にいて、実際に現地でイベントを見てきた身として、7年くらい前から子どもの数が増えてきたとは感じていて、まさにそこの子どもたちが成長した姿であるN高生の方とお話できたことが感慨深いものがありました。
そしてそんな彼らがボカロ文化をどう見ているのかを直に聞けたことは、自分として感動が大きかったです。
佐藤【ボカロおじさん】:
ボカロというジャンルができてから10年以上が経って、それがちゃんと文化になって若い子たちの人生に影響を与えている。一大カルチャーとなっていることは、そのカルチャーの端っこにいた者としてうれしい想いがありました。
そして同時に、ボカロに関わる仕事をしたいと語ってくれた彼らが関わっていくことで、この文化がどう広がっていくのか楽しみです。今日のお話を聞いた限り、日本の未来は明るいなと思いました。
──みんなの熱量すごかったですよね。若者たちの間でもボカロは盛り上がっているぽいですし。
仁平【ボカロおじさん】:
やはりシーン全体として盛り上がっているんでしょうね。
佐藤【ボカロおじさん】:
DECO*27さんとNeruさんのインタビューで、2015年くらいが(盛り上がりの)底だという話はされているんですよね。
そこから再び盛り上がってきていると言われているわけですが、その要因として、かつてのボカロ世代が年齢的に会社の第一線にいる状態という背景もあるのかなと思っています。
木村【ボカロおじさん】:
若い世代でボカロが盛り上がっているのは、すごくうれしいです。とくにハチさん、米津玄師さんのように、
佐藤【ボカロおじさん】:
最近ですと、yamaさんの「春を告げる」が大ヒットしましたが、ボカロP派生のものがJ-POPシーンでも語られ、トップになっちゃうこともある。そうなってくると、線引きがどうなってくるのかというのは気になりました。
菱山【ボカロおじさん】:
去年Twitterで話題になっていたんですが、King GnuやOfficial髭男dismの音楽についての話のなかで、ボカロ音楽の文脈がじつはあるのでは? というので盛り上がったこともあって、もしかするとだんだんと近づいてきている気もしますね。
──いろいろと世代間のお話などお聞きできて楽しかったです。
木村【ボカロおじさん】:
最後におじさんらしいことを言うと、昔のボカロシーンってもっとカオスだったんですよね。インターネットがなかったら生きていけないんじゃないかって思ってしまうような、わけがわからないボカロPさんやクリエイターがいた。逆にインターネットがそうしてしまったのかもしれないんですが(笑)。
ただ、今の若い子たちを見ていると、しっかりとしたクオリティではあるんですがヒットや内野安打を狙っているみたいな感じはして。もっとホームラン狙っていこうよって思っているんです。
──それってどのような要因があるんですか?
仁平【ボカロおじさん】:
僕は、ネット環境の変化もあって、他人の視線や意見に対して敏感になっていると思うんです。変なもの、下手なものを作ると「もっとうまくなってからアップしろ」みたいな反応があるわけじゃないですか。あの文化はなくなってほしいんですよね。
結果的に作品のクオリティが高くなくてもいいと僕は思っているんです。作るのは楽しい。それでいいと思う。でも叩かれるかもしれないからでブレーキがかかるのは、寂しいじゃないですか。
木村【ボカロおじさん】:
ボカロPで、アカウントを簡単に変える世代と変えない世代があって、最近の子たちってやってみてダメだったらアカウントを変えて芸風も変えて転生するんです。
自分からするとすごいなって思うのですが、失敗してもアカウントを変えてリセットできることはネットカルチャーの特徴ですよね。自分の好きなことを思いっきりやって失敗したらやり直す。もしかしたら今の時代ではそういう活動の仕方もありなのかもしれません。
(了)
今どきの若者は小学生のときには普通にネットを見ているという、世代差をひしひしと感じる事実を突きつけられて始まった座談会ではあるが、話してみればそこは同じボカロ好き同士、会話がまったく噛み合わない事態にはならなかった。
それどころか、ボカロおじさんがあげたボカロPの名前は知らなくても、その人が作った曲じたいは知っていたり、他の人による歌ってみた動画を見たことがあったりと、不思議なつながりが見られる場面も。n次創作の流れがあるボカロ文化ならではの世代間のずれのようで興味深かった。
とくに印象深かったのは、「2013年ころからボカロファンの年齢層に広がりが見えた」という菱山氏の言葉だ。かつてボカロに熱狂した人たちが、時を経て自分の子どもを連れてボカロのイベントに参加する。そしてその子供たちの中には、成長した今、ボカロに興味を持ち、クリエイターの道を歩もうとしている人もいるわけだ。
そんな世代を超えたカルチャーになりつつあるボカロという文化が今後どのような盛り上がりを見せてくれるのか。ひとりのボカロおじさんとして期待に胸が膨らんでしょうがない。
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