「国営マンガ喫茶」と批判されたMANGA図書館は単なる箱物か?それとも文化として発信するための手段なのか?
超党派の国会議員によるマンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟、略してMANGA議連と日本のマンガ・アニメ・ゲームが抱える課題について議論するニコ生の第3回目、『みんなで考えよう 日本のマンガ・アニメ・ゲームの未来~最終回MANGA図書館は必要か?~』。今回はMANGA議連から、会長の自民党衆議院議員古屋圭司氏、ゲストにMANGA議連アドバイザーで弁護士の桶田大介氏を迎えた。ニッポン放送アナウンサー吉田尚記氏が司会を務め、「PLANETS」編集長の宇野常寛氏がネットの声、アニメファンの声をぶつける。
最終回である第3回目のテーマは、「MANGA図書館は必要か?」。2009年、当時の麻生太郎内閣が「国立メディア芸術総合センター」建設に117億円を予算計上したものの、民主党(当時)が「国営マンガ喫茶」などと批判し政権交代後に計画が中止となった。MANGA議連は、作品資料の散逸防止やクリエイターの人材育成、訪日観光客誘致の観点から、新たに「MANGAナショナル・センター構想」を掲げている。
ニコ生の番組始めのアンケートでは、MANGA図書館が「必要だ」という意見は57.4%。古屋議員は今回のナショナル・センターは所謂箱物ではなく、民間の力や資金を利用し、さらに国立国会図書館が支部機能として入るという大きな違いを強調。それに対して宇野氏はナショナル・センターが何のためなのか? 国民の理解がまだ足りておらず、マンガ、アニメ、ゲームをここから成長産業に育てていくための手段であるともっと前面に打ち出すべきだと述べた。吉田氏は検閲を心配するネットの声を取り上げたが、古屋議員は国会図書館の段階で既にそうしたことができない仕組みになっていることを説明。そうした議論を経て、再度のアンケートでは「必要だ」は75.6%と大きく増加することとなった。
MANGA図書館は単なる図書館ではなく、アーカイブや人材育成も行うパッケージ
吉田:
MANGA図書館がなぜ必要なのかを古屋会長に説明していただいきたいと思います。MANGA議連はMANGA図書館が必要だという立場で動いているんですよね。
古屋:
MANGA図書館というと、図書館にマンガが並べてあって見られるというイメージなのでしょう、実はその機能もあるのだけれども、もっといろんな機能を作ろうと。それでなおかつ、例えばアーカイブなんかもデジタル化をして取っておいたり、民間の人たちもそこに自由に出入りして、人材の育成のセンターをそこに作ったりとか、そういったことをパッケージでやるというのがMANGA図書館構想なんです。だから図書館というよりはナショナル・センター構想なんです。
かつて麻生政権の時は約120億円のうちの大層は箱物の費用だったわけです。税金で箱を作るというのは今の時代もうあんまりトレンドじゃない。むしろ民間の力を使ってやっていくというのが大切だろうと。PPP(パブリック・プライベート・ パートナーシップ:公民連携)とかPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)といって、ようするに民間の力とかお金とかを最大限に活用してやりましょうねというのが今回の我々の構想の新しい部分。それからもう一つは国立国会図書館に支部機能として入ってもらいましょうと。そこで無償でマンガのアーカイブをしっかり見られるようにしようと。
ナショナル・センターが何のためなのか?国民の理解がまだ足りていない
宇野:
ナショナル・センターを作るのは僕も良いと思う。ぶっちゃけ、何のためにやるのかというところの国民の理解がまだ足りていないんだと思うんですよ。これにはわかりやすさが必要だと思います。ハッキリとアーカイブと教育を前面に出すのが僕の意見ですね。アーカイブと教育って多分セットだと思うんですよ。教育のためには優れた演出家、色指定、アニメーター、作画監督の育成のためには膨大な資料が必要だと思うんですよね。ただ、それを今の中央沿線のスタジオとかが1社1社やっているというのは、ちょっと現実的じゃない気がする。もう潰れてしまったスタジオとかも多いでしょうし、散逸してしまう。ここはお上が出てきてしっかりと資料を収集しますということは一回やっておくべきだと思う。
それで、そういったものを特に若いクリエイターに対して低価格もしくは無償で公開することで学んでもらう。けれども、ただ資料を見れば人は上手くなるか? と、そんなことはなくて絶対教える人は必要なんですよね。できればそこに踏み込むこと。教育専門機関のようなものと、ある種のそういった教育機関の支援装置としての側面を前面に打ち出す。これによってかなり理解は得られるようになるんじゃないかなと思うんですよね。
ナショナル・センターのアーカイブはMANGAの正倉院
吉田:
今、MANGA議連が提唱しているのはMANGAナショナル・センター構想というもので、そちらについて説明していただきたいと思います。
桶田:
MANGAナショナル・センター構想を言い換えると、①のアーカイブが正倉院な訳ですよ。ただ、正倉院に入っているものってそのままじゃ見られない。だから奈良に国立博物館ってあって、正倉院展をやりますよね。あそこで展示されることによって、私たちは価値が分かったり楽しめたりする。それが②のミュージアム。言い換えをすれば、正倉院の上に奈良国立博物館が乗っているようなものですよね。
さらにいうと、ミュージアムで企画できるものってどうしても最新のものではないでしょう。ちょっと評価が定着したり、振り返ったりするもの。でも、この分野って絶対新しいものが一番耳目を引いて、新しくて多様だから面白いですよね。そこの部分に関しては、最近ライブイベントが正にこの分野でもビジネス的に大変重要になっていて、でも東京でそういった場所がとても少なくなっているという現実の問題があります。だったら良い場所であれば、イベントホールとかそういった場所を用意して、そこをマンガとかアニメとかゲームの業界がぐるぐる入れ替わりで使っていれば、同じ場所に最新のものが常にあるわけです。それが③の話。
さらに④のところが人材育成とかで、私の個人の意見ですけど、このマンガ、アニメ、ゲームは表現が関わるので公が直接人材育成に携わるとか手を出すのはやっぱり難しいし、なるべく控えた方が多分お互いのために良い。だったらマンガ協会とか日本アニメーター演出協会とか、動画協会とか、様々ゲームも含めて団体ってありますよね。そういった団体は大抵の場合、運営がそんなに強固ではないので、一所に集まって相互に交流をしながらそこのアーカイブのいろんなものを活用しながらそれぞれの人材育成とか、業界内の交流とか業界横断交流を、直接やった方が一番効果が出やすい。それで事務所とかを集めちゃうような機能を持たせる。これを複合的に一箇所にドンと集めるのが良いのではないかと考えています。
ナショナル・センターは成長産業として育てるための手段だと強調した方が良い
宇野:
実際にナショナル・センター構想に僕が付け加えることってないんですけど。僕が一番気になっているのは、語り口の問題なんですよ。ナショナル・センター必要だと思う。特に日本のマンガ、アニメ、ゲーム業界というのは、作品の評価はある程度高いし、市場も国内市場もある程度あるんだけれども、ビジネス的にもすごく脆弱だし、人材育成に関しては本当に先送りにし過ぎてガタガタになっちゃっている現状がある。労働環境も良くない。ここはやはりお上が音頭を取ってね、何かやってもらわないと、とても何か太刀打ちできるようなプレーヤーがあまり居ない業界だと思うんですよ。だからお上がここに介入して、旗を振るのが良いと思う。
ただ、その時にナショナル・センターという箱物ありきの話にし過ぎると、多分ものすごく反発が来る。蓮舫みたいな奴が出てきてちょっと煽っただけで国民とかがわーってなっちゃうわけですよ。そうならないために、あくまでナショナル・センターは手段だということをちゃんと強調した方が良いと思います。その方が国民がついて行く。MANGA議連ドクトリンをボーンと出して、日本のマンガ、アニメ、ゲームをここから成長産業に育てていくためには、そして来るべき観光資源として活用するためには、こういった介入が必要なんだ、これから旗を振りますというのを超党派で出す。そっちが先で、ナショナル・センターというのはあくまで中核的な手段であるという話の順序にした方が多分、圧倒的に支持が集まると思うんですよね。その語り口をちょっと工夫した方が、このメッセージが先にあった方が、みんな納得するだろうなと思いました。
MANGA議連の人たちが表現規制に関して踏み込んだ発言をするのが一番効果的
吉田:
今、「検閲はしてはならない」ってコメントしている方がいて、「検閲しない」というのを何か公的に表明してもらいたいなという気がちょっとします。
古屋:
検閲なんができないでしょ。憲法で「検閲はできません」って書いてあります。
吉田:
収蔵に関しても、国立国会図書館の段階で既にそうなっているんですね。じゃあ指摘しておいた方が良いかもしれないですよ。これに関しては、今までお上と大衆文化というか、マンガ関係でいうと、青少年保護条例とかでどんどん止められるみたいな経験値がみんなあるんですよ。そもそもが、それがない。むしろナショナル・センター構想ができると、それができなくなる訳ですね。
古屋:
だって納本をする訳ですから、納本をコレはダメ、コレは良いって言えないのですから。全部、納本してきたらみんな受け付けます。
宇野:
これは単純に、理解を得るための戦術として、MANGA議連の人たちが、僕は表現規制に関して踏み込んだ発言をするのが一番効果的だと思いますよ。表現規制に関して、私たちは通り一遍の規制だったりとかね、単純所持なんかには賛成しませんと。きちんと柔軟な運用と、現場のクリエイターに対して、クリエイターファーストの考え方をちゃんとしていきますというメッセージをしっかり出すということによって、大きく支持層は動くと僕は考えますけどね。