『おそ松さん』は女子ウケを狙っていなかった!? アニメPが、いま明かす誕生秘話「赤塚先生の原作をリスペクトするところからはじめよう」
赤塚不二夫の漫画作品『おそ松くん』を原作に、六つ子が成長して大人になった後を現代風に大きくアレンジして描かれたアニメ作品『おそ松さん』。
3月22日~25日に東京ビッグサイトで行われたアニメイベント「AnimeJapan 2018」の「アニメとリバイバル 今だからこそ意味がある」と題したイベントステージにおいて、お笑い芸人の天津 向さん、アニメ評論家の藤津亮太さんの進行でトークセッションが行われました。
『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』のプロデューサーである株式会社 EGG FIRMの大澤信博さん、『DEVILMAN crybaby』のプロデューサーである株式会社 Aniplexの新宅洋平さん、『おそ松さん』のプロデューサーである株式会社ぴえろの富永禎彦さんがゲストスピーカーで登場し、制作当初は「誰もこんなに当たるとは思っていなかった」と話す『おそ松さん』の誕生秘話を明かしました。
3分でわかるTVアニメ『おそ松さん』2期の魅力。やっぱり6つ子はクズニート!
『おそ松くん』と『タッチ』は“兄弟作品”だった!?――「超機動放送アニゲマスター」元パーソナリティが語る、赤塚作品のディープな歴史
赤塚不二夫の生誕80周年がきっかけで誕生した『おそ松さん』
藤津:
これはまた何というか、原作とは全く違うものを作られたわけですけど(笑)。
富永:
そうですね(笑)。
天津 向:
面白いですよね(笑)。
富永:
そうですね。『おそ松さん』はキャラクターを使わせてもらってもう別の作品を作っている感覚に近いですかね。
藤津:
ぴえろさんは元々テレビ東京系で赤塚作品を作ってきたという経緯がありますけど、今回はどういう経緯だったのですか。
富永:
弊社内でフジオ・プロさんのところの前回の『おそ松くん』もやらせていただいていて、先生の生誕80周年に何かやりたいと企画が進んで、その中で『おそ松さん』をやろうという形になったというわけですね。
藤津:
『おそ松さん』にするというのは関係者の理解はとりやすかったのですか?
富永:
そうですね。アイデアが出た時に「これ面白いね」というリアクションだったので、原作のフジオ・プロさんからもネガティブな意見は出てこなかったので、そこは逆に強みになるかなという感じでしたね。
天津 向:
見事にそれこそすごく話題になりましたよね。
富永:
本当ですね。ありがとうございます(笑)。
天津 向:
それこそチョロ松が天津 向みたいになっているとちょっとだけリプが来ました(笑)。
富永:
(笑)
天津 向:
ありがたいですよ(笑)。そんな感じで恩恵を受けられるとは(笑)。
富永:
ありがとうございます(笑)。
天津 向:
面白いなあ。
「こんなに当たるとは誰も思っていなかったです(笑)」
藤津:
企画が予想外にスタートするわけですけど、「これをやってみたい」「こういうことをやってみたい」というのはスタッフの皆さんであったのですか。
富永:
そうですね。まずはやっぱり6人を差別化するというところですかね。そこをどう描くかというのは今のアニメのファンの方たちに届けるにあたって、どう変えようかというので、そこは勝負だろうなと思ったのでやりたかったし、やらなきゃいけないという認識はありましたね。
藤津:
やってみて6人を描き分けるというのは難しかったですか。
富永:
すごく難しかったです(笑)。基本顔は一緒なので(笑)。やっぱり監督の頭の中にしか正解がなかったので役者さんも最初は分からなかった。1期目の1クール目ぐらいまでは監督以外は本当に探り探りやっていたような感じですね。2クール目ぐらいから私も含めて正直やっとキャラ分けが分かってきたという感じです。
天津 向:
その少し迷っているというわけじゃないですけど、惑っている部分のコントもお客さんを巻き込んだ結果になったのですか。
富永:
そうかもしれないですね。たぶんお客さんもきっと最初は分からなくて、それを分かる楽しみみたいなのは、もしかしたらあったかもしれないというのは1期目の時に感じていましたね。
大澤:
僕もちょっとお聞きしたいのですけれど、いわゆる腐女子さんというか女子ウケしたじゃないですか。あれは最初から監督も含め皆さん狙ってやっていたのですか? プロデューサーとして非常に興味がある。
天津 向:
大澤さん今、ぐいっと聞きましたね(笑)。
富永:
本当に最初は赤塚不二夫先生の名作なのですけど、今のお客さんにはウケるかなという不安はすごくあって、いろいろ変えてそれこそ劇中でアイドルキャラになるとか出てきて、最初はそれをもう宣伝に出すかという話もあったのですけれど、やっぱりちょっと赤塚作品じゃないし……。
まずは「先生の原作をリスペクトというところからはじめよう」だったので、こんなことになるとは本当に思ってなかったです(笑)。
天津 向:
要素は残せど、当然これで当たるんじゃないですよね。
富永:
そうですね。そもそもあんまりみんなこんなに当たるとは誰も思っていなかったです(笑)。
一同:
(笑)
藤津:
ありがとうございます(笑)。
天津 向:
ありがとうございます。それが聞きたかったのかもしれない(笑)。
富永:
だから「当たらないだろうから好きにやるか」みたいなノリはありましたね(笑)。
天津 向:
そうですね。もうビックコンテンツにみたいになってしまっているから聞いているけれど、作り手さんはそうですよね(笑)。
富永:
スタートは特にそこまで手前では話題になってなかったとは思いましたし、じゃあ好きにやろうみたいな感じでしたね。
天津 向:
そういうことなのですね。
藤津:
僕がちょうど1期を放送当時に藤田陽一監督にお話を伺った時に、やっぱり『おそ松くん』だとアニメも2回あるけれど、じゃあ今みんながそのアニメをすごく覚えているかと言うと、そういうわけでもなくて、ある種まだ隙があったと。原作も連載中にどんどんテイストが変わっていく作品であったと。
『天才バカボン』だと、こうはやりづらかったかもしれないというお話をされていたのですよね。
富永:
そうですね。やっぱり『おそ松くん』のこれはまだ6つ子に個性をつけるというところが勝ち目になるなと思ったというのが、結局以前のアニメとか原作ではイヤミとチビ太が主役だったので、そこはもういじれないって。
イヤミだと昔はもう国民的キャラみたいになっていたので、ここはもう絶対変えられないなというのがあって、変えられるところがあったというのがそこでしたね。
天津 向:
確かにあえて6つ子って本当に6人が全く一緒という、そこのボケだけでやっているわけじゃないですか。
富永:
そうですね。
藤津:
しかもほぼ出オチですからね(笑)。
天津 向:
芸人で考えたらぞっとしますよね。同じボケしかしないのですもの。
富永:
そうですね(笑)。
一同:
(笑)
天津 向:
それをあえてそれぞれキャラクターをつけたことによって広がる世界観というのは分かりやすいですよね。確かに『天才バカボン』では無理なのはみんな個性があるから動かしようがないということですよね。
富永:
そうですね。あんまりいじれる余地がない。どちらかというと『天才バカボン』とかは、完成されたキャラや作品という印象だったので。
完成品を見て「ザ・ドリフターズとかにちょっと近いのかなと」
藤津:
「だからこそできたシーン」というのはどうですか。
富永:
そうですね。結局6つ子に個性をつけるに戻ってしまうのですけれど(笑)。
今、聞いていて『おそ松さん』もそうかなと思ったのは、やっぱり時代性を反映するということは今じゃないとできないなと思って、今、キャラをニートという設定にしたのはたぶん今の時代じゃないとできなかったのかなとは思いますし、何十年か前にはそういう言葉すらなかった時のことを考えると、今だからこそできたのではないかなというふうに聞いていて思いました(笑)。
一同:
(笑)
天津 向:
なるほどなと。
藤津:
素朴な質問ですけど、どんどんコントみたいになってくるじゃないですか。要は6人の個性づけだけ活かして、いわゆる女子松さんだったりとかサラリーマンコントみたいになったりとかですね、あれは最初からやることに入っていたのですか。
富永:
そうですね。元々脚本を書かれている松原秀さんがお笑いのほうから来た方なので。
天津 向:
そうですよね。
富永:
そういうことは必然的にやろうかなと思っていたところもありましたし、監督もおっしゃっていますけれどやっぱりバラエティ番組を作るような感覚でいろんなことをやってお客さんに楽しんでもらいたいということがあったので、そこはもうはじまった時に、それをやろうという具体的なことはなかったのですけど、ああいうことはやれたらいいなというのはありましたね。
天津 向:
確かにあのドタバタのスピード感というか、あれは僕らが知っているゴールデンでやっていたバラエティ番組のスピードですから、僕ら世代は特に見やすいですし、新しい人は新鮮というか。
富永:
そうかもしれないですね。私も出来上がったのを見て、ザ・ドリフターズとか、私が子供の頃に見ていたああいうのにちょっと近いのかなと。作る前は全然想像していなかったですけど(笑)。
天津 向:
ザ・ドリフターズを作るなんて思わないですよね(笑)。
富永:
そうですよね(笑)。